なんで原子核より高密度な「中性子星」が成立するの?「強い核力」の謎に迫る

space 2020/03/05
Credit:depositphotos
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  • 超高密度天体「中性子星」は、自然界の4つの力の1つ「強い核力」によって潰れずに支えられている
  • 「強い核力」は、原子核を構成するための引力だが、極近距離では斥力として働く
  • 新しい研究は、これまで謎の多かった「強い核力」が近距離で働かせる斥力について、具体的な計測に成功した

この世の物質は、全て原子で構成されていますが、その原子の中身は原子核と電子です。

そして原子核は、陽子と中性子という核子が見えない強い核力によって接着剤のように結合されています

この強い核力とは、重力、電磁力、弱い核力とともに物理学の基本となる4つの力の1つです。

強い核力はその名の通り、4つの力の中で最強の力を持っていて、本来なら同じ電荷で反発するはずの陽子さえまとめています

しかし、この強い核力には謎があります。それは自然界最強の引力であるにも関わらず、原子核内の陽子・中性子同士よりも、さらに近距離にくっつくほど接近した場合、逆に斥力になるというのです。

原子核内よりも、それぞれの核子が接近する状況というのは、普通にはありえませんが、自然界にはその極端な状況を成立させているものがあります。

それが中性子星です。

スプーン一杯で地球と同じ質量を持つと言われるほど、とてつもなく高密度の天体「中性子星」の中では、中性子が原子核内よりも密集してくっついている状態になっています。

非常に重い天体が、最後に自重で潰れることなく中性子の塊として成立する秘密がここにあります。

中性子星が発見されて以来、物理学者たちはこの恐ろしく近距離で強い核力が、それぞれの核子にどのように作用しているか理解するために苦労していました。

新しい研究は、そんな極端に短い距離の陽子と中性子の相互作用について、粒子加速器の実験データを使って、初めて特徴づけに成功したと報告しています。

この研究はマサチューセッツ工科大学の研究者A. Schmidt氏をはじめとして、MIT、ヘブライ大学、テルアビブ大学、オールド・ドミニオン大学およびジェファーソン研究所の粒子加速器CLASの科学者グループが参加する研究者チームにより発表され、論文は科学雑誌『Nature』に2月26日付けで掲載されています。

Probing the core of the strong nuclear interaction
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2021-6

物理学を支配する 4つの力

物理学では自然を支配する基本的な4つの力が定義されています。

電磁力、重力、弱い力、強い力です。

Credit:KEK 文部科学省・高エネルギー加速器研究機構

前半の2つなら、日常生活でも身近に感じられ、誰でも知っている力ですが、後半の2つはなんでしょうか?

プロの物理学者の中にも、「この名前なんとかなんないの?」と疑問が上がるほどえらくざっくりした名前を付けられた「弱い力」と「強い力」は、原子核物理学で重要な力で、原子以下というレベルのミクロな世界でしか働いていません。

そのため、私達が意識したことも感じたこともないのは当たり前なのです。

弱い力については、ベータ崩壊という原子核物理学の現象で重要となるものです。

そして、今回の研究の主役となるのが「強い力」です。これは陽子と中性子を結びつけて原子核を構成している力で、「強い核力」または「強い相互作用」とも呼ばれています。

ここでは力と表現しましたが、電磁力が電気力と磁力に別れて見えるように、1つの力の異なる側面が別々現れる場合もあるので、一般的には相互作用と表現するほうが正確かもしれません。

それにしても、「強いってなんやねん」と思う人がいるかも知れません。しかし、この力はまごうことなく4つの力の中では最強なのです。

その強さは、電磁力と比較した場合に約100倍、重力と比べた場合には1040という途方も無い大きさになります。(重力が小さすぎるという言い方もできますが)

まさに力こそパワーと言いたくなる強大な力です。が、その影響範囲はおそろしく狭く、10-13メートル程度しか届きません。強いけど射程が短いという、まるで能力バトル漫画のお約束のような性質を持っています。

物理学の基本的な力には、それぞれ力を伝達するボソンと呼ばれる素粒子が存在します。

電磁力は光子、重力はグラビトン(未発見)、弱い核力はウィークボソン(W粒子とZ粒子)です。そして強い核力を媒介するのが、グルーオンという素粒子です。

Credit:KEK,キッズサイエンティスト

そのため、強い核力の作用を理解するためには、中性子や陽子を構成するクォークと、グルーオンの複雑な相互作用を考えなければならないと言われています。

これは量子色力学という非常に難解で複雑な分野のお話になってきます。

中性子星の謎

Credit:Raphael.concorde, Daniel Molybdenum,en.Wikipedia

中性子星は、恒星の死後の姿の1つです。

太陽質量の8倍までの恒星は、最後は重力不足で核融合が停止し、白色矮星という「予熱で輝く星」になります。

太陽質量の8~10倍となる恒星は、どんどんと中心核の核融合進んで重い核が生まれていきます。そして最終段階では、陽子が電子を捕獲して中性子に変わっていきます

星の核は電子の持つ縮退圧(収縮に抗う力)によって支えられているため、電子を失った星の核は重力を支えられなくなり急速に収縮していきます

この収縮は中性子が高密度に固まって、その縮退圧で重力を支えられるレベルに達した段階で停止します。こうして中性子ばかりの超高密度天体「中性子星」が誕生するのです。

他の物質は、このとき中性子のコアにぶつかってスーパーボールのように弾かれて飛んでいきます。この衝撃波が超新星爆発です。

中性子星は直径15キロメートル程度という、日本のそこらの県より小さい大きさでありながら、太陽の1.5倍以上の質量を持つ超高密度天体で、その中身の中性子は、原子核内よりも過密な状態に圧縮されています。

普段のガラガラな電車が原子核なら、中性子星は満員の通勤電車のような状態です。そりゃ重いはずです。

さてそんな中性子で問題となるのが、なんでこの星はそんな重いのに潰れないのか? ということです。

天体が中性子星より重くなった場合、それは潰れてブラックホールになります。中性子星が天体としての形を維持して安定していることには、何か理由があるはずなのです。

その原因となっているのが、中性子星の中で中性子やわずかに残った陽子の間に働いている「強い核力」の存在です。

中性子と陽子をつなげる核力が、なぜ中性子星のとてつもない重力を支えて安定させるのでしょうか?

実はこの強い核力は、量子色力学という特殊な分野で説明されるもので、非常に複雑な振る舞いをします。

その中で代表的なものが、核子同士が10-13メートル程度離れている場合には互いを結びつける引力として働きますが、約10-15メートル以内まで近づくと逆に斥力に変わってしまうという性質です。

陽子と中性子は核力により引き合うが、近づきすぎると斥力芯に跳ね返されて押し戻される。/Credit:KEK

この強い核力の反発力(斥力芯と呼ばれる)によって、中性子星は潰れずに成立しています

この特殊な性質を見極めることが、中性子星を安定させている原因を探る重要な調査になるのです。

粒子加速器のデータアーカイブから見つけた事実

中性子星のような極端に核子間の距離が近い環境は、容易に実現できるものではありません。

しかし今回の研究者たちは、「粒子加速器の実験がこの環境を実現している」と考えました。

粒子加速器は高エネルギーの電子を、原子などにぶつける実験をしています。このとき、原子は破壊され、陽子と中性子など一対の核子を放り出す場合があります。

この核子のペアは非常に近距離にある可能性もあります。

Credit:depositphotos

「どれだけ激しくぶつかったか、ぶつけられたものがどれだけの勢いで出てきたかを調べることで、飛び出した対象の最初の状態を再構築できます」と研究者は語ります。

そこで、彼らが利用したのが、面白いことに過去の粒子加速器で行われた実験データのアーカイブでした。ここで利用されたのはジェファーション研究所で2012年まで使われていた粒子加速器CLASのデータです。

この実験データには、測定した過去の研究者たちが直接利用していなかった膨大なデータも埋もれているのです。

この施設で、原子核に衝突した電子の数は実に4億個にも達していました。この膨大なデータ・アーカイブから、今回の研究者たちは飛び出した陽子や中性子のペアを見つけ出し、その運動量と相互の推定距離から、中性子星コアの密な状態に近いものを洗い出して調べ上げたのです。

その結果、研究者たちは陽子と中性子が極近距離の場合に働く反発力だけでなく、陽子と陽子、中性子と中性子の場合に強く反発する相互作用についても、値を導き出すことに成功しました

強い核力が近距離で斥力に変わることは、理論的に予想されていたことでしたが、実際に測定値として得られたことは驚くべきことです。

さらにこの結果は、強い核力の反発作用が予想より単純なものであることも示していると言います。

これまで中性子星の内部などを理解するためには、中性子と陽子を作り上げている素粒子クォークと、強い核力を伝達するグルーオンの複雑な相互作用を考慮してモデル化しなければならないと考えられていました。

今回の研究者たちは、今回のデータがあれば、そんな複雑なモデルを利用せずとも、もっと単純な形で中性子内部を説明できるかもしれないと話しています。

中性子星という天体の話をするのに、10-15メートル以下の世界の振る舞いを理解しないといけないなんて、本当に物理の世界は奥が深いですね。

「量子のゆらぎ」によって真空中でも熱が伝わると判明

reference:MIT News,medium,JAXA,東京大学 / written by KAIN
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