自然界に必ずいる「はぐれ者」は種の存続のためのキーマンだった

biology 2020/03/20
キイロタマホコリカビ/Credit: Carolina Biological Supply/Visuals Unlimited
point
  • 自然界に必ず存在する「はぐれ者」には、種の存続のための生物学的な役割があった
  • 「キイロタマホコリカビ」は、集団行動でコロニーが全滅しないように「はぐれ者」を準備する

「群れ」の引力に抵抗し、独りの道を歩むことはとても難しいです。それでも、はぐれ者は、自然界のいたるところで見かけられます。

例えば、大移動の流れから外れるヌー、大群から離れて一人歩きするイナゴ、仲間とタイミングをずらして花を咲かせる植物など、挙げればキリがありません。

はぐれ者は、動物から植物、細菌、そして人間まで、自然界のほぼすべてで見られます。

しかし、はぐれ者の人生を選択する生物がいるのはなぜでしょうか。群れに参加した方が、天敵に狙われる確率も下がり、食料も安定して手に入るはずです。

「もしかしたら、はぐれ者には種の生存にとって重要な役割があるのかもしれない」

こうした観点から、アメリカ・プリンストン大学の進化生物学者コリーナ・タニタ氏は、「キイロタマホコリカビ」という粘菌を用いた研究を行いました。

キイロタマホコリカビには、特殊な集団システムがあるのですが、ここにも仲間から外れるはぐれ者が存在します。

ところが、研究の結果、キイロタマホコリカビのはぐれ者は、自分勝手な行動を取っているのではなく、種全体の存続のためにあえて独りの道を選んでいることが示唆されたのです。

研究の詳細は、3月18日付けで「Plos Biology」に掲載されました。

命をかけた「タワーリング合体」

キイロタマホコリカビは、粘菌の一種です。

粘菌とは、アメーバ状の単細胞生物のことで、胞子形成のために必要な「多細胞性の子実体(いわゆるキノコ)」をつくり出す能力を持ちます。

キイロタマホコリカビは、食料となる細菌が得られる時は個体で捕食するのですが、飢餓状態にさらされると、コロニーに属する個体が寄り集まって合体し、ナメクジのようなタワーをつくります。

そして、タワーを頭上にまっすぐ伸ばしていき、先端の胞子が近くを飛びすぎる昆虫にくっつくまでウネウネと待ち続けるのです。

昆虫にくっついた胞子は、また新天地でコロニーを拡大するのですが、一方でタワーを形成した粘菌たちは、仕事を終えた後にすべて死滅します。

彼らの集団行動は、種の生存と拡散のための必須行動なのです。

タワーをつくる「キイロタマホコリカビ」/Credit: youtube

しかし、注目すべきは、タワーを形成する集団をよそに、何もしないはぐれ者がいることです。みんなが命をかけているのに、何もしないでボケーッとするのは許せないと思われるでしょう。

ところが、彼らには「何もしない」という重要な役割が任されていたのです。

「はぐれ者」は全体を見て判断している?

タニタ氏と研究チームは、一般的には見向きもされないキイロタマホコリカビのはぐれ者にスポットを当てた研究を始めました。

まずは、キイロタマホコリカビがタワーをつくる様子を見てみましょう。

ご覧の通り、コロニーのほぼ全員が巨大なタワーに合体する横で、まったく動かない個体がちらほら確認できます。

これまでの研究で、彼らは集団行動の中で偶然生じるミスか、あるいは、遺伝的な欠陥のせいで集団行動に参加できないのではないかと考えられていました

しかし調査の結果、食欲や繁殖行動を含むあらゆる面で、異常は見られていません。

集合をよそに「はぐれ者」が存在する/Credit: youtube

その後、はぐれ者の数を正確にカウントしたところ、その数はランダムに決まるのではなく、コロニー全体の数と密度によって変化していることが判明したのです。

例えば、コロニーが少なすぎる場合は、ほぼ全員が孤立した状態を保ち、一定数を超えると、タワーをつくるグループの中に少数のはぐれ者が準備されました。

コロニーがさらに大きくなると、それに応じてはぐれ者の数も増えていたのです。研究チームが、野生から採取したコロニーでは、3割近くが孤立状態を保っていました。

このことから、はぐれ者は、全体の様子を見て、集団に参加するか否かを判断している者と思われます。

「はぐれ者」は種の存続に不可欠だった

では、はぐれ者が存在する理由はどこにあるのでしょう。

タニタ氏は、その理由について、「とてもシンプルですが、種の生存にとっては重要なもの」と話します。

それは、はぐれ者が、「リスク分散戦略(Bet-hedging strategy)」の一部として存在するということです。

例えば、種の存続と拡散のために、コロニーの全員が集団行動(タワーリング)に参加した場合を考えましょう。成功すれば問題ありませんが、それが失敗に終わるとコロニーは全滅します。

ギャンブルで例えるなら、持ち金すべてを一点賭けするようなものです。ゲームならともかく、種の存続がかかっている局面でそんなリスクは冒せません。

すると、はぐれ者の役割とは、賭けが失敗した場合の保証金ということになります。はぐれ者が生きていれば、タワーリングが失敗しても、まだコロニーの再興は可能でしょう。

要するに、はぐれ者の単独行動は、自分勝手に見えて、その実、種の未来を見据えた社会的行動だったのです。

多様性が種を救う

これは粘菌だけでなく、植物や動物、人間にも同じことが言えます。

もしも人類全体が、同じ行動を取り、同じ性格で、同じ体質だったとすれば、何らかの疫病や精神病に冒されると絶滅まっしぐらです。

しかし、生き物に性別があること、性格や遺伝的体質が違うことで、種は疫病に耐え、繁栄することができます。

まさに「みんなちがって、みんないい」ということなのかもしれません。

人類は「不安・うつ症状」を抱きやすいように進化してきたのかもしれない

reference: phys.org / written by くらのすけ
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