- 自然界に必ず存在する「はぐれ者」には、種の存続のための生物学的な役割があった
- 「キイロタマホコリカビ」は、集団行動でコロニーが全滅しないように「はぐれ者」を準備する
「群れ」の引力に抵抗し、独りの道を歩むことはとても難しいです。それでも、はぐれ者は、自然界のいたるところで見かけられます。
例えば、大移動の流れから外れるヌー、大群から離れて一人歩きするイナゴ、仲間とタイミングをずらして花を咲かせる植物など、挙げればキリがありません。
はぐれ者は、動物から植物、細菌、そして人間まで、自然界のほぼすべてで見られます。
しかし、はぐれ者の人生を選択する生物がいるのはなぜでしょうか。群れに参加した方が、天敵に狙われる確率も下がり、食料も安定して手に入るはずです。
「もしかしたら、はぐれ者には種の生存にとって重要な役割があるのかもしれない」
こうした観点から、アメリカ・プリンストン大学の進化生物学者コリーナ・タニタ氏は、「キイロタマホコリカビ」という粘菌を用いた研究を行いました。
キイロタマホコリカビには、特殊な集団システムがあるのですが、ここにも仲間から外れるはぐれ者が存在します。
ところが、研究の結果、キイロタマホコリカビのはぐれ者は、自分勝手な行動を取っているのではなく、種全体の存続のためにあえて独りの道を選んでいることが示唆されたのです。
研究の詳細は、3月18日付けで「Plos Biology」に掲載されました。
https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.3000642
命をかけた「タワーリング合体」
キイロタマホコリカビは、粘菌の一種です。
粘菌とは、アメーバ状の単細胞生物のことで、胞子形成のために必要な「多細胞性の子実体(いわゆるキノコ)」をつくり出す能力を持ちます。
キイロタマホコリカビは、食料となる細菌が得られる時は個体で捕食するのですが、飢餓状態にさらされると、コロニーに属する個体が寄り集まって合体し、ナメクジのようなタワーをつくります。
そして、タワーを頭上にまっすぐ伸ばしていき、先端の胞子が近くを飛びすぎる昆虫にくっつくまでウネウネと待ち続けるのです。
昆虫にくっついた胞子は、また新天地でコロニーを拡大するのですが、一方でタワーを形成した粘菌たちは、仕事を終えた後にすべて死滅します。
彼らの集団行動は、種の生存と拡散のための必須行動なのです。
しかし、注目すべきは、タワーを形成する集団をよそに、何もしないはぐれ者がいることです。みんなが命をかけているのに、何もしないでボケーッとするのは許せないと思われるでしょう。
ところが、彼らには「何もしない」という重要な役割が任されていたのです。