視力9000!前代未聞の高解像度でクエーサーのジェットを観測

space 2020/04/01
中央からジェット噴射するクエーサーのイメージ。/Credits: NASA, ESA and J. Olmsted (STScI)
point
  • これまでにない高い解像度で、クエーサーの中心から放たれるジェットの様子が観測された
  • ジェットは誕生間もない状態で、星間ガス雲と衝突して激しく揺さぶっている
  • これは銀河のガス流出の手がかりで、銀河の進化を理解するために重要となる

初期の銀河クエーサーでは、予想より星形成が抑制されているという問題が存在します。

その原因は、クエーサーが星の材料となる星間ガスを銀河外へと流出させていることだと考えられています。

原因となる現象は、クエーサー風やクエーサー津波など観測されていますが、厳密なメカニズムはまだ完全に解明されていません。

地球から比較的近い銀河を観測した場合、星間ガスを押し出すのに一役買っているのは中心核のブラックホールが起こすジェット噴出です。

クエーサーでもジェット噴出の影響は大きいと考えられますが、遥か彼方の天体であるクエーサーで、ジェットが星間ガスに与える影響はまだ十分に理解されていません。

クエーサーは初期の銀河の姿であり、銀河形成、進化を知るために重要な天体です。

今回の研究では、日本の天文学者チームが、アルマ望遠鏡を使って地球から110億光年離れたクエーサーで起こるジェットを、高解像度で観測することに成功したと報告しています。

この研究は、近畿大学、東京大学など複数の大学、及び国立天文台、台湾中央研究院の研究者によるチームから発表され、論文はアメリカの天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に2020年3月27日付で掲載されます。

ALMA 50-parsec-resolution Imaging of Jet–ISM Interaction in the Lensed Quasar MG J0414+0534
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ab7b7e

視力9000相当の観測

アルマ望遠鏡で観測されたクエーサーMG J0414+0534の疑似カラー画像。重力レンズ効果により4つに分裂して見える。/Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. T. Inoue at al.

今回観測が行われたのは、クエーサー「MG J0414+0534」です。

クエーサーは中心の超大質量ブラックホールの降着円盤が、あまりに眩しい輝きを放つため、まるで一個の恒星のように見える銀河です。

クエーサーは非常に遠方の宇宙に見える天体で、若い銀河の姿とされています。

遠い天体の距離は、観測される光の伸び(赤方偏移)の量から推定されます。これは宇宙がどの様に膨張しているかを予想する宇宙モデルの、どれを採用するかによって計算結果が変わってきます。

さらに宇宙モデルを特徴づけるパラメータは毎年のように更新されているので、同じ天体でも研究によって距離の計算が異なったりしますが、今回の研究では、プランク衛星から得られたパラメータを用いて、地球との距離は110億光年としています。

これだけ遠いと普通に見るということは不可能です。そのため観測には重力レンズ効果が利用されています。

これは目的のクエーサーと地球の間に、巨大な重力を持った銀河などが存在することによって、光が虫眼鏡のように曲げられて地球に拡大されて届く効果です。

重力レンズ効果。/Credit:NASA/hubblesite

このため、観測されたクエーサーは4つに分裂して見えています

この天然の望遠鏡たる重力レンズと、アルマ望遠鏡の観測を組み合わせることで、今回の観測はクエーサーを非常に高い解像度で観測することに成功しました。

アルマ望遠鏡の解像度は0.04秒角ですが、重力レンズ効果と合わせるとその解像度は0.007秒角になるといいます。

「秒角」という単位は馴染みが無いかもしれませんが、これは角度を時計の秒針に合わせて分割した単位で、1秒角は3600分の1度を表しています。もちろん「分角」という単位もあって、この場合60分の1度が1分角です。

そして、私たちの視力1とは、1分角が認識できる能力を指しています。よく視力検査でC型のランドルト環を見せられますが、あれは1分角の隙間が認識できているかを測っているんですね。

視力検査位の概略図。/Credit:三和化学研究所

この私たちの視力に直して考えると、今回の観測はなんと視力9000相当で110億光年先のクエーサーを見ていることになるのです。

こうして、研究チームは遥か遠方にあるクエーサーの超大質量ブラックホールが放つジェットと、周囲にある星間ガス雲の衝突する様子を、これまでになく高い解像度で観測することに成功したのです。

高解像度のジェットとガス雲の衝突

観測データをもとに、クエーサーMG J0414+0534の重力レンズ効果による歪みを修正した疑似カラー画像。オレンジ色が塵と高温電離ガスの分布、緑色が一酸化炭素分子ガスの分布を表す。/Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. T. Inoue et al.

観測データをもとに、重力レンズによる歪みを補正して再構成されたのが、上の画像です。

オレンジ色で表現されているのが、塵や高温電離ガスで、緑色は一酸化炭素分子ガスです。

中央の非常に明るく輝く電波源が、クエーサーの中心を表しています。ここでは一酸化炭素分子ガスの放つ電波が、銀河核の両側に長く伸びるように分布しているのがわかります。

これは超大質量ブラックホールの放つジェットに沿って、ガスが毎秒600kmという速度で激しく運動しているためで、ジェットと星間ガス雲の衝突が、ガスを激しく揺さぶっていることを示しています。

分析の結果、星間ガスの衝突領域は、典型的な銀河サイズと比べると大変小さいことがわかりました。これは、ジェットが吹き出して間もないことを示しています。

この結果は、非常に若いジェットと星間ガス雲が相互作用する論理シミュレーションの予想と一致しています。

アルマ望遠鏡観測成果をもとに描いた、クエーサーMG J0414+0534の想像図。/Credit: 近畿大学

上の画像は、銀河中心の超大質量ブラックホールから吹き出したばかりのジェットと、周囲の星間ガスが衝突している様子を表したものです。

研究メンバーは今回の観測を、超巨大ブラックホールからジェットが吹き出してわずか数万年後、ジェットの誕生直後の様子を見ている、と考えています。

今回の観測は、超巨大ブラックホールの活動が銀河に明らかな影響を与えているという確かな証拠を示すものです。

この成果は、銀河の進化初期において超巨大ブラックホールが放つジェットがどのように星間ガス雲に影響を及ぼし、どのように銀河の巨大ガス流出が引き起こされるのかを明らかにする手掛かりになるでしょう」と、研究メンバーの一人近畿大学の井上氏は語っています。

まっすぐ地球に向かってジェット放射する超古代の大質量ブラックホールの謎

reference: ALMA,国立天文台/ written by KAIN
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