万能細胞をはさまず皮膚の細胞を直接「目の細胞」に変えるダイレクト・リプログラムに成功!

biology 2020/04/19
Credit:ナゾロジー
point
  • 万能細胞を経由しないで、皮膚細胞を直接、視覚細胞に変化させた
  • 変化した視覚細胞を盲目のマウスに移植すると、マウスは視覚を取り戻した
  • 細胞のダイレクト・リプログラム技術が発展すれば「変身」も可能になる?

新しく行われた研究で、皮膚細胞を万能細胞に戻すことなく直接、視覚細胞(桿体細胞)に変えることに成功しました。

またこの視覚細胞を生まれつき盲目であったマウスの網膜に移植すると、マウスは光を認識するようになったとのこと。

これまでは、同じような細胞のリプログラムを行うには元の細胞を一度、万能細胞(iPS細胞)に変化させてから、視覚細胞へと再変化させる必要があり、最大で6カ月もかかっていました。

しかし今回の研究によりダイレクト・リプログラムが可能になったことで、必要とする時間を10日まで一気に短縮できました。

今後、リプログラム技術の研究速度は十数倍以上、加速されると考えられます。

さらに、ダイレクト・リプログラム技術が発展すれば、SFやマンガの世界で行われている「変身」が、現実の技術になる可能性もあるのです。

しかし「皮膚」から「目」へ、細胞はどのようにしてリプログラムされたのでしょうか?

ダイレクトリプログラムに使われた5つの小分子と3つの添加物には、身近なアレも入っていた

横軸は日付。上に掛れているアルファベットは加える成分の頭文字を並べたもの。またPIMは培地を意味する。「VCRFI / PIM」とあるときは、バルプロ酸(V)・CHIR99021(C)・RepSox(R)、フォルスコリン(F)、IWR1(I) が培地(PIM)に含まれていることを意味する。5日目以降はS・T・Rが新たに培地に加えられている様子も読み取れる。ダイレクトリプログラムは10日で済むようになった/Credit:nature

日本の山中教授は4つの因子を制御させることで体の細胞を万能細胞へと変えましたが、今回の研究では主に5つの小分子の「カクテル」と3つの添加物を加えることで、皮膚から視覚への細胞のリプログラムに成功しました。

これらの成分の中には、思いもよらない身近な化学物質も含まれていました。

上の図は何日目にどの分子を加えるかを示した「レシピ」になります。

レシピによれば、この5つの小分子は、バルプロ酸(V)・CHIR99021(C)・RepSox(R)、フォルスコリン(F)、IWR1(I) となります。

この中にあるフォルスコリンはダイエットサプリとして売り出されている「フォースコリー」と同じ成分です。

Credit:DHC

なかには、ダイエット目当てで飲んだ人もいるかと思います。

また追加で加えられた3つの添加物の中には、疲労回復効果があるタウリン(S)やビタミンA誘導体であるレチノイン酸(R)といった栄養ドリンクや栄養サプリにもよく入っている成分がありました。

それ以外の物質は身近とは言えませんが、決して珍しい成分ではありません。

しかし、私たちの胃袋に目ができていないのは、これらの物質を適切な配合で使う必要があったからです。

研究者たちは、この適切な配合を決定するために、研究時間の多くを費やしました。

リプログラムした細胞を盲目のマウスに移植する

移植が成功した盲目マウスでは健康なマウスと同じように光に反応して瞳孔が小さくなっている(入光が絞られている)/Credit:nature

5つの小分子と3つの添加物を加えることで、皮膚細胞は見た目も発現している遺伝子も、桿体細胞と呼ばれる目の光を感知できる視覚細胞に変化していきました。

しかし、これだけでは細胞が本当に視覚細胞としての機能を獲得しているかはわかりません。

そこで研究者は遺伝操作によって、生まれつき桿体細胞が機能を失っている盲目マウスの網膜に、リプログラムした細胞を移植することにしました。

移植によってマウスが光を感知できるようになれば、リプログラムされた細胞は機能の面でも、本物の視覚細胞であることが証明されるからです。

移植実験を行って一か月後、マウスの目にライトの光があたり、瞳孔が収縮するかが確かめられました。

盲目の状態では目にライトが当たっても瞳孔の収縮(光量の絞り)は起こりませんでしたが、移植を受けた14匹のマウスのうち、6匹のマウスで瞳孔の収縮が確認されました。

さらに証拠を確かなものにするために、これら6匹のマウスに対してライトに対する日よけが与えられました。

マウスは暗がりを好む性質があるために、移植によって光を感知できるようになっていれば、日よけが提供する日陰にはいる率が、健康なマウスと同じになるはずです。

実験を行った結果、瞳孔の収縮が確認された6匹のマウスは、健康なマウスと同じように日陰を好むことが判明しました。

皮膚からダイレクト・リプログラムした視覚細胞でも、生体内で正常な機能を発揮できたのです。

緑色の桿体細胞(視覚細胞)からニューロンが伸びている/Credit:Sai Chavala

ですが研究者はまだ満足していません。

さらなる検証の為に、光を獲得した元盲目マウスたちから、網膜が取り出されました。

上の図は、光を取り戻した6匹のマウスから摘出された網膜の染色画像です。

画像では、緑色の桿体細胞が網膜と一体化して、ニューロンで視覚神経と繋がっている様子がうかがえます。

このことから、移植されたダイレクト・リプログラム細胞にも、神経との接続能力があることが判明しました。

変身が可能になる

自然界には変身生物がたくさん存在する/Credit:depositphotos

今回の研究は、皮膚や目といった私たちの体を構成する細胞が、簡単な刺激でリプログラムされ、別の組織に変化可能であることが示されました。

この研究成果を応用すれば、人体の組織を改編させる「変身」が、SFやマンガの世界から現実へとやってくるかもしれません。

というのも「変身」は自然界では珍しくない現象だからです。

蝶をはじめとした変体昆虫、オタマジャクシからカエルに変形する両生類など、多くの生物が細胞のリプログラムを利用して変身しています。

この過程を人工的に行い、さらに事前に変身後の遺伝情報を細胞に書き加えていれば、望みの姿に「変身」できるようになるかもしれません。

またSFやマンガのヒーローのような劇的な変化ではなくとも、登山やマラソンといったレジャーを楽しむために、一般の人間が、事前に脂肪細胞を削って筋肉細胞を増やすといった、日常に即した使い方もできるはずです。

骨細胞を変身させれれば身長も変幻自在になり、美容もファッション感覚の変身がメインになるでしょう。

もしかしたら、未来の人類はみんな多かれ少なかれ「変身」できるようになっているのかもしれませんね。

 

研究内容の詳細はアメリカ、ノーステキサス大学のビラージ・マハト氏らによってまとめられ、4月15日に最も権威ある学術雑誌「nature」に掲載されました。

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reference: sciencedaily.nature / written by katsu
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