history archeology

古代の武具の傷痕から青銅器時代の剣術を再現する実験考古学

2021.01.27 Wednesday

2020.04.26 Sunday

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Credit:Journal of Archaeological Method and Theory (2020),Hermann et al.
point
  • 青銅器時代の武器の摩耗の具合や、損傷箇所などから剣・盾・槍の使用法が再現された
  • 青銅は柔らかく、修復は困難な金属であり、剣士はその特性にあった戦い方をしていた
  • 古代の戦士たちは闇雲に剣を振り回さず、かなり技巧的に戦っていた

青銅器は紀元前1600年から紀元前600年頃までヨーロッパ全土で使用されていました。

日本でも青銅器は多く出土しているので、歴史の教科書で銅剣や銅鐸なんて青銅製の古代の遺物を見た覚えがあるでしょう。

こうした青銅製の武器からは古代のロマンを感じずにはいられませんが、青銅は柔らかく武器の素材には向かない金属のため、考古学者はこれが戦いのために作られたという説については懐疑的です。

歴史の授業でも、青銅剣は武器じゃなく祭儀用の道具として作られたという説明をされてがっかりした人は多いでしょうか。

『ドラクエ』では序盤の頼もしい装備として登場する「せいどうのけん」「せいどうのたて」といった装備は、現実に実戦で使われることはなかったのでしょうか?

こうしたことに興味を持つのは、なにもゲーム好きばかりではありません。真面目に考古学を学んでいる人たちの中にも、古代の戦いにロマンを感じている人たちがいます。

彼らは、青銅製の武器に残る傷痕から、古代の戦士たちがどうやって戦っていた推測しようと試みています。

戦いの傷跡

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実験に使用されたレプリカの剣。/Credit:Journal of Archaeological Method and Theory (2020),Hermann et al.

青銅とは銅と錫の合金です。

この金属は非常に柔らかく、後世で使用された鉄製の武器と比べると潰れやすく修復が難しいため、戦闘の道具としては不向きだと考えられています。

青銅の剣は、ヨーロッパの各地の墓地や、川、沼地などから何千本も発見されていますが、これらはおそらく祭儀目的や、ステータスシンボルとして作られたものだと目されているのです。

しかし、今回の研究チームの一員である考古学者のヘルマン氏は、斧や槍、矢じりと異なり、剣は純粋に人間同士が殺し合うために発明された最初の道具であると語っています。

当時の戦士たちは、もろく修理の難しい青銅武器の特性を理解し、それに合わせた戦闘技術を会得していたはずだと考えているのです。

剣同士を打ち合わせることは避けて、相手の腹を一突きできれば、剣が壊れることは無いだろうとヘルマン氏は言います。

そこで今回の研究チームは、7本の青銅剣のレプリカを作成し、実際に剣と剣の打撃や、盾、槍への打撃でどういった痕が残るかということを、体系的に記録していきました。

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青銅の盾に剣を突き立てたときの痕跡を調べる実験。/Credit:Journal of Archaeological Method and Theory (2020),Hermann et al.

研究チームは、中世ヨーロッパの戦闘術を再現する地元クラブのメンバーに協力を仰ぎ、中世の戦闘指南書に見られる動きを参考に、レプリカの武器で決闘を行ってもらいました。

その様子は高速度カメラで撮影され、武器同士の打ち合いで残る凹みや傷の種類と位置を記録していきました。そして、特定の剣の動きで武器に残る傷痕のパターンを分類していったのです。

出土した青銅器の中に、これらパターンと一致する傷痕が見られた場合、青銅器時代の戦士たちも同じ動きを使用していた可能性が高いと考えられます。

例えば、ドイツ流剣術に見られる「versetzen(受け流し)」の動作でレプリカの剣に付く傷は、青銅器時代のイタリアやイギリスの剣に見られる特徴的な傷痕と一致していました。

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ドイツ流剣術の受け流し術。versetzenの動作。/Credit:Versetzen and Absetzen: Longsword Lesson 16,Sword Carolina

さらに研究チームは、イギリスとイタリアで発見された青銅器時代の剣110本を顕微鏡で調査し、2500以上の特徴的な傷痕をカタログ化して時代や出土地域に関連付けて分類しました。

この結果、上の「versetzen(受け流し)」の動作でつく傷は、紀元前1300年以降に現れる特徴で、イギリスより前にイタリアで数世紀に渡って見られていたことを発見しました。

また、斬撃をまともに受けると、剣は10度程の角度で曲がってしまいました。これは発見された古代の青銅剣にも見つかっている特徴で、青銅製の剣では、斬撃を受けた場合、容易にひしゃげてしまうことがわかります。

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斬撃を受けることで曲がってしまった剣。上がレプリカ。下が出土品の青銅剣。/Credit:Journal of Archaeological Method and Theory (2020),Hermann et al.

このことから、青銅の剣では、正面から斬撃を受け合うような戦い方は避けられていただろうと考えられます。

この研究からは、古代の戦士たちがただ野蛮に剣を振り回すような戦い方はせず、よく訓練された技巧的な動作で青銅の剣を使用していたことが示唆されています

これまで考古学者たちがただ推測するしかなかった古代の戦闘術について、この研究は定量的な評価を可能にしています。他の考古学者からは今回の研究手法を評価する意見が出ています。

中二心をくすぐる素敵な研究ですが、内容はかなり徹底的で真面目なものです。

これらの実験からは、古代戦争の様子も推察することができます。青銅の剣をどう扱っていたか知ることができれば、古代の戦士たちが、青銅の武器でどのような行動を避け、どの程度のリスクを取ることができたか推測することが可能です。

青銅の剣は実際に戦いで使われていたようです。そして、それはかなり巧みな戦いだったのでしょう。

この研究は、ドイツのゲオルク・アウグスト大学ゲッティンゲン の考古学者Raphael Hermann氏を筆頭とした研究チームより発表され、論文は考古学をテーマとした学術雑誌「Journal of Archaeological Method and Theory」に4月17日付けで掲載されています。

「サビの塊」を9ヶ月磨いたら2000年前の古代ローマ戦士の「銀」の短剣だった

reference: sciencemag/ written by KAIN

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