新型コロナは「睾丸には感染しない」という研究結果

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Credit: depositphotos
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  • 以前から新型コロナウイルスが男性の睾丸に感染する可能性が指摘されていた
  • 今回の研究では、感染した患者の精液からはウイルスは検出されず
  • 両研究者の見解が真っ向から対立している

先日、新型コロナウイルスが男性の睾丸に感染する可能性があるという米国の研究結果が報告されました。4月18日の「ロサンゼルス・タイムズ」でも、この研究を受け、「睾丸は男性をコロナウイルスに脆弱にするのか?」との記事を発表しています。

一方で、4月24日に学術雑誌「Fertility and Sterility」に掲載された研究では真逆の結論が導き出されました。

今回研究者らは、米国の研究者たちが行っていなかった感染者からの直接的な精液採取を行い、精液中に新型コロナウイルスが存在しないことを証明したというのです。

また米国の研究者が「睾丸にはコロナウイルスがターゲットとするアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)が多く存在する 」と主張した一方で、今回の研究者は、睾丸にはACE2の遺伝発現(RNA)が僅かだと報告。

両者の主張は真っ向から対立しました。

お互いの主張を整合性をもって統合するには、「ACE2遺伝子の設計図の金型(RNA)がほとんどない状態なのに、生産物であるACE2だけが大量に湧き出てくる」という、奇妙な結果を受け入れることになります。原理的には不可能ではありませんが、非常に難しいと言わざるをえません。

睾丸を巡る真相は、いったいどう展開していくのでしょうか?

「睾丸には大量のACE2がある」 VS 「睾丸ではACE2の遺伝発現は僅か」

アメリカの研究者は既存の睾丸のデータを参照した/Credit:medrxiv

コロナウイルスは、人間の細胞に存在するアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)と呼ばれるタンパク質に吸着することで感染を引き起こします。

米国の研究者は睾丸でもACE2が多量に生産されているとの既存のデータを根拠に、コロナウイルスが睾丸に感染する能力があるとの見解を示しました

睾丸に感染するウイルスには、他にもエボラウイルスやエイズウイルスが知られています。

また米国の研究者らは、睾丸には「精子が男性の免疫システムに狙われないようにする免疫特権がある」ことを紹介し、コロナウイルスは睾丸に潜むことで、男性の免疫システムから逃れることができると予測しました。

そして男性のほうが女性よりコロナウイルスからの回復が遅い点を指摘し、男性の回復の遅さはコロナウイルスが睾丸に潜んでいるからだという「睾丸潜伏説」を主張したのです。

図はACE2の発現量を2次元的に可視化したもの。中国の研究者は新たに自分たちで測定し、睾丸(精巣)ではACE2は作られないと結論しました/Credit:Fertility and Sterility

これに対して今回の研究を発表した華中科技大学の研究者らは、自分たちの測定では、そもそも睾丸にはACE2の遺伝子発現がほとんどみられないと主張。

さらにコロナウイルスに感染した患者から直接、精液を採取して分析を行い、精液中にもコロナウイルスが確認されなかったと述べ「睾丸無縁説」を展開しました。

両者の主張は一長一短

結論がどちらでも、男性の方が感染が長引きやすいのは事実/Credit:medrxiv

並び立つ2つの「睾丸潜伏説」と「睾丸無縁説」。

しかし、どちらの研究にも大きな弱点がありました。

米国の研究では精液中のコロナウイルスが調べられていません。一方、中国の研究では、測定したものがACE2のタンパク質そのものではなく、ACE2をコードする遺伝子の金型(RNA)の量でした。

加えて中国の研究では、軽度な症状の患者からしか精液を採取していなかったのです。

またどちらの研究でも、患者の睾丸の細胞を直に観測しておらず、睾丸中のウイルスの有無に関する決定的なデータが存在しません。

もっとも、この点においては仕方ない部分も存在します。

睾丸の細胞にウイルスが存在するかを確かめるには、睾丸を取り出して、薄くスライスして、顕微鏡で観察しなければなりません。

そしてどちらの研究でも、残念ながら、睾丸を寄付してくれる患者には巡り合えませんでした。

共通なのは患者と検死解剖医による現場の意見

「睾丸潜伏説」と「睾丸無縁説」は全てが対立しているように思えますが、わずかに見解を共有している部分もあります。

それは患者からの直の訴えと、亡くなった患者の検死解剖を行っている現場医師の意見です。

コロナウイルスに感染した男性患者の19%が、睾丸に強い不快感を覚えているとのこと。

また亡くなった男性患者を解剖した医師は、患者の睾丸が炎症性の反応により大きく構造崩壊と細胞死を起こしていることを報告しました。

これらの意見は、科学者同士の競争意識を超えて尊重されるべきでしょう。

なお論戦の一般的な見解では、感染することを証明するより、感染しないことを証明するほうが遥かに難事です。

そのような意味では、中国の研究は今後、より徹底した証拠を要求されるでしょう。

コロナウイルスが睾丸に感染するかしないか、男性にとっては死活問題ではありますが、結論が出るのはまだ先のことになりそうです。

 

研究内容の詳細は、華中科技大学のFeng Pan氏らによってまとめられ、4月24日付で査読付き学術雑誌「Fertility and Sterility」に掲載されました。現在はプレプルーフ版がオンラインで公開されています。

No evidence of SARS-CoV-2 in semen of males recovering from COVID-19
https://www.fertstert.org/article/S0015-0282(20)30384-8/pdf

高齢者の重症化原因? 新型コロナは全身の血管に感染することが判明

reference: eurekalert / written by katsu
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