人の「やり抜く力」を脳構造から80%の精度で判別可能に

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やり抜く力を持っているかどうかが脳構造から判別される/Credit:depositphotos
point
  • 人間の脳構造を調べるだけで「やり抜く力」があるかどうか判定できる
  • 「やり抜く力」がある脳構造に変化することも可能である

宿題から言語学習まで「やり抜く力(達成する力)」は非常に重要ですが、知能検査とは違い、「達成する力」を正確に測定することは困難でした。

しかし今回の研究では、これまで正確な測定ができなかった「達成する力」の科学的定量化に成功。人工知能が人間の脳を分析した結果、人間では認識不可能だった「達成する力」の強さにかかわる前頭葉の構造を発見したのです。

研究者たちは研究用に開発された「持続性測定器」を使って脳をスキャンすることで、対象とする人間が「達成する力」があるかどうかを80~90%の精度で判別可能になりました。

この数値は標準的な面接評定の信頼性を大きく上回ります。

急速な発展をみせる能力定量化技術が、既存の適性テストや面接を介した判別システムに取って代わる日がくるのでしょうか?

達成する人間は脳構造が違っていた

達成者グループと非達成者グループには明らかに脳構造の違いがあった/Credit:nature COMMUNICATIONS BIOLOGY

人間の「達成する力」を測定するために、まず被験者の全員の脳構造をMRIを用いて詳細に記録しました。

次いで、被験者に「ハノイの塔」と呼ばれる複雑なパズルを1時間に渡り解かせた結果、参加者のうち52%は達成し、48%は途中で諦めました。

諦めた理由の中で最も多かったものが「予想より難しい」であり次点で「疲れた」でした。

次に研究者たちは、達成者と非達成者の間で脳構造に違いがないかを、機械学習を用いて調査。

結果、達成者の左脳の前頭前部の灰白質容量と、白質の神経線維の方向性の強さが、非達成者にくらべて優位に大きいことがわかりました。

達成者グループは左脳の前頭前部に密度が高い神経接続域をもっていた/Credit:nature COMMUNICATIONS BIOLOGY

また上の図に示す部分において、達成者は非達成者に比べて神経接続が多く観察されました。

得られた結果をもとに再度、参加者の脳構造から達成の可否を推測してみると、精度は90%にも及びました。

さらに被験者に対する課題をパズルからより長い持久力を求められる第二外国語の学習(5週間に及ぶ)に変更した場合、脳構造は、80%の精度で達成者と非達成者を事前判別できることがわかりました。

このことから研究成果を応用し、評価項目に脳構造の優劣を加えることで、面接官の人間的なミスや勘違いを補正できると考えられます。

努力は非達成者側から達成者側へ脳構造を変化させる

自分に合ったサブゴールを設定することは劇的な達成率の上昇をもたらす/Credit:nature COMMUNICATIONS BIOLOGY

では、人間の「達成する力」は一生変わらないのでしょうか?

今回の研究ではさらに踏み込み、非達成者が達成者になれるコーチング戦略の開発も並行して行われました。

コーチング戦略の鍵となった要素は、サブゴール(小さなゴール)の設定です。

達成者側の脳構造を持つ人間は、一つの目標を大きな一塊として乗り越えられます。しかし非達成者側の脳構造を持つ人間でも、目標を細分化することで、最終的には達成者側の脳構造の人間と同じスキルレベルまで到達できることが明らかにされました。

上の図の左の円グラフでは、サブゴールを用いない場合、45%の人間が非達成であることを意味しています。

しかしサブゴールを設定することで、右の円グラフが示すように、非達成者の割合を7.3%まで減らすことができました。

非達成者側の脳であっても、サブゴールを使った学習をすることで達成者側の脳構造に近づける/Credit:nature COMMUNICATIONS BIOLOGY

次に研究者は、達成者側と非達成者側の脳構造が後天的に変化可能かどうかを調べました。

その結果、上のグラフのようにサブゴールを設定することで、非達成者側の人間の脳構造(灰白質の容積と白質の神経の方向性の強さ)が変化。達成者側の人間の脳構造に近づいていくことが判明したのです。

この脳構造変化の身近な例では、学校の勉強を頑張る重要性があげられます。

学校の勉強は退屈で就職後には役立たないと考える人もいますが、自分で課題を設定してコツコツ成し遂げる訓練をすることで、脳構造を達成者側に変化させ、「やり抜く力」が身につく可能性が高いからです。

このように、資質と努力は複雑に絡み合いながら脳の構造を変えていきます。

将来、能力の定量化技術が発展すれば、煩雑なテストやコストの高い面接を省略して、求める人材を脳構造から発見できるようになるかもしれませんね。

 

この研究内容は日本の東京大学の細田千尋氏らによってまとめられ、4月28日に学術雑誌「nature / COMMUNICATIONS BIOLOGY」に掲載されました。

Plastic frontal pole cortex structure related to individual persistence for goal achievement
https://www.nature.com/articles/s42003-020-0930-4

「先延ばしにする人」と「すぐやる人」の脳は根本から違っていた

reference: nature / COMMUNICATIONS BIOLOGY / written by katsu
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