孤独が長引くと「魚」も仲間に会いたくなくなる!? ”気まずさ”を感じるのは人だけじゃない。

life 2020/06/16

point
  • 長い孤独は仲間に会いたいという欲求を減らし再開を苦痛にする
  • 再開が苦痛になるのは会いたいと無意識に望んでいるから
  • 会いたい気持ちが長時間満たされないと会いたい気持ちが脳にとってストレスになる

孤独でいると、はじめは人と会いたいという気持ちが高まりますが、あまりに長い孤独は、逆に人から会いたい欲求を奪うだけでなく、会うことに恐怖すら与えます。

この不思議な逆転現象は経験的によく知られていましたが、科学的には原因は不明でした。

そこでイギリスの研究者は、人間と同じように社会性の魚(ゼブラフィッシュ)を使って、長い孤独により社会性が失われるメカニズムを解明することにしました。

ゼブラフィッシュは社会性を持つ生物ですが、約10%の個体は生まれつき他の個体との接触を嫌う孤独癖を持つことが知られており、様々な角度から孤独を研究するには最適の生物なのです。

実験を行った結果、会いたい欲求を奪い、恐怖を与えるのは「欲求の変質」が原因だと判明します。

どのようなメカニズムが働いて、会いたい気持ちが変質してしまったのでしょうか?

同じ社会的動物でも個体差がある

社会性のある動物は会うことに喜びと快楽を感じる/Credit:eLife

会いたい欲求の謎を解明するために、研究者はゼブラフィッシュの脳にご褒美を与える報酬回路と、苦痛や恐怖を与えるストレス回路に着目しました。

上の図のように、ゼブラフィッシュの90%は仲間に会うことで報酬系が作動する一方で、孤独癖のある10%は報酬系が作動せず、仲間に会っても嬉しさを感じません。

孤独の初期には仲間に会おうとして脳の視覚領域の機能が高まる

孤独が短ければ再開に意欲が出る/Credit:eLife

実験では研究者は、短時間(2日間)の孤独と、その後の再会が脳機能にどのような影響を与えるかを調べました。

結果、孤独が短時間の場合、通常個体は再開時に、脳の視覚にかかわる領域の機能を活性化させていました。

しかし孤独の期間が伸びるにつれて、再開時に起こる視覚活性化は低下していきました。

このことは、孤独が短時間の場合は仲間に会いたいという気持ちが強かったものの、孤独な期間が伸びるにつれて欲求が減少していったことを意味します。

一方、孤独癖のある個体は再開時の視覚領域の活性化はみられませんでした。

長い孤独中に、いきなり友達と出会わせると苦痛が生じる

孤独が長引くと会いたい気持ちが変質してストレスになる/Credit:eLife

次に研究者は、長期の孤独が再開にストレスになるかを調べました。

ストレスの強さは、摘出した脳の後部隆起核と呼ばれる脳の区域の活性度で判断されます。

結果、通常の個体は孤独が長くなるほど、仲間との再会に強いストレスを感じていることがわかりました。

一方で、孤独癖の個体は孤独の時間が長くても、再開にストレスを感じていませんでした。

孤独癖の個体は孤独が幸せ/Credit:eLife

ただ孤独癖の個体は再開にストレスを感じないものの、日常生活のなかで仲間と過ごすことがストレスになるようです。

上の図では、通常の生活の中で他者と会う時のストレスを孤独癖個体と通常個体で比べたものになります。

どうやら孤独癖の個体は良くも悪くも孤独でいたほうが幸せなようです。

以上の結果から、会いたいと思う気持ちが強いほど、長期の孤独後の再開に苦痛が強くなる……という意外な結果が得られました。

研究者は、会いたい欲求が満たされないまま長い時間が経過すると、会いたいと願う脳の回路の負担が増えて焼き切れたような状態に陥り「会いたい気持ちそのもの」を脳がストレスと認識するようになったと考えました。

会いたい気持ちがストレスに変質すると、再開もストレス要因になります。

一方、孤独癖の個体はそもそも会いたい気持ちがないために、回路の負担が生じず、再開もストレスにはなりませんでした。

再開にかかるストレスは薬でなおせる

会いたくない気持ちは会いたい気持ちがあるからうまれる/Credit:depositphotos

最後に研究者は、長期の孤独状態にある個体の再開時にかかるストレスを減らせないか検討しました。

結果、ブスピロンと呼ばれる不安を取り除く精神薬を投入することで、通常個体の再開時のストレスを減らすことができました。

脊椎動物の社会性は魚からヒトまで広く保存されており、共通の脳機能が元になっていると考えられています。

そのため長期間の隔離入院や引き籠り生活が、人間の脳機能にも影響を与え、対人関係の形成に高いハードルになる可能性があります。

もし余りにも出会いに苦痛を感じているのなら、治療を受けてみるのも一つの手です。

他人に会いたくないと思う気持ちは、会いたいと思う気持ちの裏返しでもあるからです。

研究内容はイギリス、ウォルフソン生物医学研究所のハンデ・トゥンバク氏らによってまとめられ、5月5日に学術雑誌「eLife」に掲載されました。

 

Whole-brain mapping of socially isolated zebrafish reveals that lonely fish are not loners
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7282805/

人に会えなくなった水族館の魚たちに次々と「うつ症状」が出始める

reference: sciencedaily / written by katsu
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