亜光速で移動するものが肉眼でどう見えるかが判明! ヒトは「ゴム人間」に?

physics 2020/06/21
亜光速で移動する自転車は歪んでみえる/Credit:Proceedings of the Royal Society A
point
  • 亜光速で走る自転車の肉眼でのみえかたが解明される
  • 亜光速自転車では接近時に前後に伸びてみえ、遠ざかると前後が圧縮してみえる
  • 亜光速自転車が赤色の場合、接近時に青色になり遠ざかると赤外線になってみえなくなる

バトルを描くSF小説やマンガでは、速さはキャラや機体の強さを描写する重要なファクターです。「光速」やそれに近い速度設定も、よく目にしますね。

しかし、光速に近い速度(亜光速)で移動する物体が現実のヒトの目にどうみえるか、噛み砕いて説明してくれる科学論文は少なく、これまでは概念上のものでした。

そこで新しく行われた研究では、亜光速で移動する「自転車」が肉眼にどのようにみえるかを2D・3Dの両方でシミュレート。

その結果、亜光速で移動する自転車は観察者との位置関係によって、ダイナミックに伸び縮みしてみえることがわかったのです。

それでは一緒に、伸び縮みする亜光速自転車を観察してみましょう。

2Dの亜光速自転車は最接近するときに一番伸びる

実際のシミュレーションに使われた2D版の亜光速自転車/Credit:Proceedings of the Royal Society A

研究者は最初に、簡略化された2Dの亜光速自転車の見え方を解明しました。

上の図に示した2D自転車は線で構成されているようにみえますが、実は多くの小さな点の集まりです。

亜光速で移動する自転車が肉眼で観察するとどうなるか?/Credit:Proceedings of the Royal Society A

研究者はアインシュタインの相対性理論を組み込んだ仮想空間のなかで、この2D自転車を光速の90%で左から右に向かって移動させました。

観察する人間は、上の図のように自転車の移動方向とはズレて配置されています。

接近時に特定の距離で一番伸びてみえ、離れていくときに特定の距離で一番圧縮してみえる/Credit:Proceedings of the Royal Society A

シミュレーションを行った結果、亜光速自転車は上の図のようにみえることがわかりました。

自転車は「みかけ」の接近速度が超光速になる接近時に前後に伸びてみえ、遠ざかるにつれて、前輪と後輪の幅が狭くみえるようになります。

このように自転車が伸び縮みして見えるのは、同じ時間にオブジェクトの各部位を「同時にみる」という行為が、原理的に不可能だからです。

私たちがものを「みる」とき、映像はオブジェクトが同時に放出した光子ではなく、同時に到着する光子によって生成されます。したがって、人が見るのは、オブジェクトからさまざまな時間に発生する、一緒に編まれた光子のパッチワークだったのです。

さらに、私たち人間には2つの目があり、厳密に言えば光は右目と左目に異なるタイミングで到達します。

左右の目に光が届く時間が違うので、実際にはダブってみえる/Credit:Proceedings of the Royal Society A

そのため脳の認識力は別として、右目と左目に到達する光の時間差を考慮した場合は、上の図のように自転車がダブって見えます。

3Dの亜光速自転車のみえかた

赤い点の集合で描かれた3D版の亜光速自転車/Credit:Proceedings of the Royal Society A

次に研究者は、上の図のように、より現実に近い3Dで描いた自転車でシミュレートを行いました。

3Dの亜光速自転車は2Dと同じく、点の集合から作られています。

また3Dでは、それぞれの点に赤色の光を発するように設定が行われました。

色をつけたのは、光のドップラー効果を確認するためです。

光には波としての性質もあり、波長が長い赤色でも、亜光速での接近によって波長が圧縮され、より波長の短い黄色や青色、そして紫へと変化していきます。

光速の65%で目の前を横切る場合/Credit:Proceedings of the Royal Society A

上の図は赤く光る3Dの亜光速自転車が、光速の65%で目の前を通過したときの、みえかたの変化をタイムラプスで表示させています。

同じように赤く光る自転車でも、接近しているパーツは青や黄色で示され、遠ざかっていくパーツは赤黒く見えています。

最後のほうの、遠ざかっていく自転車が黒く表示されている図は、ドップラー効果によって自転車の発する色が可視光区域から外れた赤外線になったことを意味しています。

亜光速の世界では、形だけでなく色も変化してみえるのです。

光速の90%で目の前を横切る場合/Credit:Proceedings of the Royal Society A

上の図のように亜光速自転車の速度を光の90%に設定した場合は、さらに可視光で見える部分が狭まり、肉眼ではほぼみえなくなります。

また接近時の歪みも非常に大きくなり、立体的な原型を確認するのは困難になります。

光速に近づくにつれて「みえないゴム人間」になる

光速の90%が黒線、70%が赤線、50%が青線。なぜ特定の距離で伸びと圧縮が起こるかはわからない/Credit:Proceedings of the Royal Society A

今回の研究により、もしSF小説などでリアルな亜光速バトルを描くときには、速度制限を設ける必要があることがわかりました。

光速に非常に近い場合(90%)、キャラや機体がゴム人間のように激しく伸び縮みしてみえるだけでなく、衣装や塗装の色も可視光域から外れてしまうからです。

/Credit:Proceedings of the Royal Society A

しかし適切な速度設定を行えば、自分やバトル相手のカラーリングを変化させて表現できます。アクションに伴う歪みや変形の表現にも幅ができるでしょう。

1938年に出版された『トンプキンスの冒険』では、光の速度が自転車の速度よりわずかに早い奇妙な世界が描かれました。

この世界では僅かな加速によって周囲の景色が容易に歪み、景色の色彩が変化します。

トプキンスの冒険で描かれた亜光速世界の表現は、1905年(日露戦争勃発の一年後)に現れたアインシュタインの相対性理論に基づくものであるものの、あくまで想像の域をでませんでした。

しかし今回の研究によって、SFの想像が科学的事実と一致することが証明されたのです。

先に想像、後から科学……というパターンが的中した見事な例と言えるでしょう。

興味のある人は、参考にしてもいいかもしれません。

 

研究内容はイギリス、サリー大学のE. A. Cryer-Jenkins氏らによってまとめられ、6月3日に学術雑誌「Proceedings of the Royal Society A」に掲載されました。

Gamow’s cyclist: a new look at relativistic measurements for a binocular observer
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspa.2019.0703

 

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reference: phys / written by katsu
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