ダイヤモンドより硬い炭素結晶「ペンタダイヤモンド」の存在が予言される! 

technology 2020/07/03
ペンタダイヤモンドの構造。/Credit:筑波大学
point
  • 五角形の炭素結合の組み合わせで、新しい炭素結晶が構築可能なことが理論的に予言された
  • シミュレーション結果では、この炭素結晶はダイヤモンドより軽くて高い強靭性を持つ
  • この結果を元に、新しい高硬度材料の開発などが期待される

ダイヤモンドはモース硬度(物質の傷つきにくさ)が最高の10という、天然の物質としては最高クラスの硬さを有する高硬度材料です。

この硬さと結晶の美しさから愛の強靭さを示す贈り物としても、研磨・切削用の工業材料としても、世間で幅広くもてはやされています。

けれどこのダイヤモンドは見た目の美しさとは裏腹に、炭などと同じ炭素結晶であることが知られています。炭素は原子価が4つあり、安定して多様な結合を作ることができるのです。

このため材料研究では、古くから興味の対象になっていて、炭素を使ってより扱いやすく強靭な材料を生み出そうとする研究も盛んに行われています。

そして、筑波大学の研究チームは、こうした研究から5つの炭素原始を環状に結合することで、新しい結晶構造が存在可能であることを報告しています。

これは理論的な予想の段階ですが、量子力学に基づくシミュレーションの結果では、この新たな炭素結晶は、ダイヤモンドより軽くて強靭であることが示されていて、「ペンタダイヤモンド」と名付けられています。

この研究論文は、科学誌『Physical Review Letters』に掲載されていますが、その成果の重要性から同誌の「Editors’Suggestion(編集者推薦論文)」に選ばれています。

ダイヤを超えるダイヤ 「ペンタダイヤモンド」とは?

炭素はさまざまな結合形態から多様な構造が存在し、黒鉛やダイヤモンドなど、複数の物質を生み出すことができます。

生命に必要な基本元素としても炭素は重要な存在です。

そして、その構造に強く依存した物性を有するところから材料研究の分野でも注目されています。

炭素結晶は、原子同士の共有結合が極めて強力なため、軽量な高硬度材料を生み出せるとして、さまざまな結晶構造がこれまでも、合成されたり、理論的に予言されたりしてきました。

研究チームは極めて対称性が高い3次元炭素共有結合ネットワークを幾何学的な考察から導き出しました

そして、5角形に並んだ炭素原子がすべての辺を共有させた、3次元構造が構築可能であることを予言したのです。

ペンタダイヤモンドの構成要素となる辺を共有した5角系構造。/Credit:筑波大学

予言とか言われると、ついスピリチュアルなイメージを持ってしまう人もいるかもしれませんが、科学技術は基本的にまず理論的な予言・予想を行い、そこから実証実験に移るというプロセスを踏んで進化していきます

そのため、こうした予言は技術が新たな段階へ踏み出すための非常に重要な布石となるものです。

こうして考え出された5角形を基本とした炭素結晶がペンタダイヤモンドです。

ダイヤモンドの結晶構造(左)。ペンタダイヤモンドの結晶構造(右)。/Credit:Wikipedia,筑波大学

この構造はダイヤモンドと比べると6割程度の密度しか持たないため、極めて軽い結晶です。

さらに量子力学に基づく物性シミュレーションを行った結果、ペンタダイヤモンドは安定した炭素結晶であり、さらにダイヤモンドの8割に及ぶ体積弾性率(硬さの指標)、1.3倍のヤング率(変形のしにくさ)、1.8倍の剪断弾性係数(鉛直方向の物質の歪みにくさ)を有するとわかりました。

これまでもダイヤモンドより高い弾性率(歪みにくさ、硬さ)を持つ結晶などは提案されてきましたが、トータルでこれだけ高い弾性率を示した炭素結晶は知られていません

これは、今後合成を目指すべき新しい炭素結晶が示されたことを意味します。ここから炭素物質科学に新たな展開が開かれるかも知れません。

炭素はなぜ特別なのか?

すべての元素の中でも炭素は非常に特別な存在です。

これは炭素が多くの原子たちの中で、共有結合するために丁度いい位置にあるためです。

原子は最外殻に余っている電子の数によって、さまざまな電気的結合をして物質を生み出しています。

元素周期表はこの電子の数(正確には原子核内の陽子の数)が基準になって作られています。原子は電子を収納するための電子殻を持ち、電子の数が増えて1つの電子殻が埋まると、外側に新しい殻を作ってそこを埋めていきます。

原子としては、外側の電子殻が電子で埋まっている状態がもっとも安定している状態です。

周期表と原子価。/Credit:受験のミカタ

元素周期表とそれぞれの原子の電子配置を見てみましょう。

電子殻は二段目では2つですが、三段目では3つになっています。電子は原子核に引きつけられているため、新たな電子殻が増えて外側へ行くほど、互いの引きつける力が弱くなります。

このため、化学的な結合は元素周期表の上の段の原子ほど強くなります。このため炭素を含む2段目の原子たちは、比較的結合する力が強い原子ということになります。

さらに元素周期表では、右に行くほど電子を捕まえる力が強くなります

この理由も、周期表の電子の配置を見ると理解できます。周期表で一番左にあるナトリウム(Na)を見てみましょう。

最外殻に電子が1つしかないナトリウム原子は、新しく電子を捕まえるより、余った電子を捨ててしまった方が安定します。

このため新たな電子を引きつける力より、手放す力の方が強く働きます。

Credit:医学部受験を決めたら 私立・国公立大学医学部に入ろう!ドットコム

逆に周期表の右にある塩素(Cl)を見てみると、最外殻はほとんど電子で埋まっていて、1つだけ電子が足りない状態です。

つまり電子を手放すより、1つ電子を捕まえてきた方が安定するわけです。

ちなみに周期表の一番右側のネオン(Ne)などは、最外殻がすべて電子で埋まっていて余っても不足してもいないので、ほとんど化学反応しません。そのため、この話からは除外されます。

 

Credit:医学部受験を決めたら 私立・国公立大学医学部に入ろう!ドットコム

というわけで、改めて周期表を見てみると、電子を引きつけて結合する力が強いのはフッ素(F)ということになります。

しかしフッ素は電子を共有する枠が1つしかありません。手前の酸素(O)は2つ、その手前の窒素(N)は3つです。そして炭素(C)は4つあります

これより手前のホウ素(B)は電子を捨てる力の方が強くなってしまいます。

というわけで、あらゆる原子の中で、炭素がもっとも多くの電子を安定して共有できる位置にいるのです。

さらに炭素は同じ炭素同士で結合することが可能です。炭素同士がすべて共有結合という強い結合で結びついた状態がダイヤモンドです。

このため、ダイヤモンドは自然界の中でも格段に硬く強い物質なのです。

合成ダイモンドでダイヤモンドは安くなる?

ただのダイヤモンド。今回のペンタダイヤモンドがどんな見た目になるかは不明。/Credit:Wikipedia

ペンタダイヤモンドがどんな見た目になるのかわかりませんが、規則的な結晶は美しい見た目になるかもしれません。

ダイヤモンドは金のように希少な物質のために価値が高いわけではなく、供給側が非常に厳格に市場流通量を制限することで値崩れしないように価値を保っています。

合成できるダイヤモンドは現在はかなり研究が進み、工業用のダイヤモンドには合成ダイヤモンドも多く利用されるようになっています。

しかし、宝飾品としてのダイヤモンドは、合成より天然ダイヤモンドがいい! という人が多いので結局あまり価格に影響を与えていません。

工業加工に興味のない人は新しいダイヤモンドの登場で、ダイヤが安く買えるかも、と期待する人もいるかもしれませんが、宝飾品にはあまり関係のないお話なので注意しましょう。

ペンタダイヤモンドは軽く強靭で、高硬度材料の応用として工業用に非常に高い価値をもったダイヤモンドです。

さらに研究の中でペンタダイヤモンドは、圧電材料(圧力を加えると電圧が発生する材料)として応用できること、物質中を伝わる音速が既存の物質の中で最速クラスになることも明らかにされています。

現在はまだ予言の段階ですが、合成される日が楽しみな高性能材料ですね。

この論文は筑波大学の研究チームより発表され、米国物理学会が発行する科学雑誌『Physical Review Letters』に6月30日付けで掲載されています。

また、この論文は特に重要な成果を報告する論文として、同誌の「Editors’Suggestion(編集者推薦論文)」に選ばれています。

Pentadiamond:A Hard Carbon Allotrope of a Pentagonal Network of sp2 and sp3 C Atoms
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.125.016001
【編集注 2020.07.03 20:20】
記事内容に一部誤りがあったため、修正して再送しております。https://nazology.net/archives/61433
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