「事象の地平面」を持たない新たなブラックホールの姿が理論的に導かれる。 情報問題も解決可能

space 2020/07/10

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  • 内部構造のある「事象の地平面」を持たない新しいブラックホールの姿が理論的に導かれた
  • ブラックホールは強重力で、物質が取る高密度の新たな相と捉えることができる
  • これまで謎の多かったブラックホールの保持する情報量も、従来の予想と整合的に計算できる

ブラックホールというと、なんでも吸い込む宇宙に空いた穴のようなものを想像する人が多いでしょう。

これまでイメージされてきたブラックホールは、まさに穴の様な存在で、「事象の地平面」という重力の滝壺みたいな領域に落ちてしまうと、光さえ脱出できなくなると言われていました。

このため、内部がどのようになっているかは一切わかりません

しかし、理化学研究所と京都大学の研究者による共同研究チームは、ブラックホールの内部を論理的に記述した新しいブラックホールのイメージを発表しました。

新しいイメージでは、ブラックホールが「事象の地平面」を持たない高密度の物体であるとされ、強い重力下であらゆる物体が取り得る極限状態の新しい相であると表現されています。

この解に従えば、ブラックホールの重大な未解決問題の1つ「ブラックホール情報パラドックス」も解決できるといいます。

一体ブラックホールの真の姿とは、どのようなものなのでしょうか?

これまでのブラックホールのイメージ

Credit:pixabay

観測技術の向上で、最近では周囲を取り巻く降着円盤の撮影まで成功したブラックホールですが、その内部の様子については何もわかっていません

ブラックホールは極めて強力な重力源であり、その周囲には光さえ入り込んだら脱出不可能となる「事象の地平面」が存在するためです。

しかし、現在ではブラックホールはいっさいなんの放射も行わない天体ではなく、「ホーキング輻射」によって蒸発している天体だということが理論的に示されています。

無である真空中は、実はなにも存在しないわけではなく、物質と反物質がくっついているために何もないように見えているだけなのです。そのため真空中では常に粒子と反粒子が対生成・対消滅を繰り返しています。

真空はピースで埋まったパズルのような状態。ピースが物質なら反物質はピースの抜けた穴に例えることができる。/Credit:pixabay

事象の地平面すれすれで対生成が起きると、反物質がブラックホール内へ吸い込まれ、ブラックホール内部の物質と対消滅を起こしてブラックホールの質量(エネルギー)を奪います。

一方で、反物質を失った片割れの物質は、この世の存在として宇宙へ解き放たれます。

これがいわゆるホーキング輻射の原理です。(詳しくはこちらの記事を参照)

Why Black Holes Could Delete The Universe – The Information Paradox Credit:Kurzgesagt

こうしてブラックホールは徐々に蒸発し、理論上は最終的に消滅してしまいます。

ここで問題となるのが、ホーキング輻射で放たれる物質(光子)は、ブラックホール内部の物質と無縁だということです。

物理学ではこの世のあらゆる物質は、自分がかつてなんであったかという情報を保持していると考えられています。

極端にいえば、炭になった火災現場を調査して出火原因を特定できるのも、現在の宇宙を観測してビッグバンまでの歴史を遡ることができるのも、物質がかつての情報を保持しているからです。

たとえ素粒子であっても、それは例外ではありません。素粒子も波動関数として過去との情報の繋がりを持っています。その情報は時間とともに発展するというのが量子力学の基本的な考えです。

一般相対性理論ではブラックホールを巨大な時空の歪みとして記述します。この考え方に従うと、「事象の地平面」内に捕らわれた物質は二度と外へ出てくることはできません。

そうなると、ブラックホールが全然関係ない対生成で生まれた粒子を放射しながら消滅したとき、吸い込まれた物質が持っていた情報はどこへ消えてしまうのでしょうか?

これが「ブラックホール情報パラドックス(あるいは単に情報問題)」と呼ばれる未解決問題です。

新しいブラックホールの姿

新たな研究はそんな矛盾を含んだブラックホールを、新たな姿で記述しています。

研究チームは、最初から蒸発の効果を取り入れて、物質が潰れていく過程を理論的に解析しました。

その様子をわかりやすくするために、下の図を参考に見ていきましょう。

量子力学の効果を取り入れたブラックホールの形成と蒸発。/Credit:理研,Hikaru Kawai and Yuki Yokokura(2020)

まず、ブラックホール化する天体と、吸い込まれる周辺の物質を球状の物質と考えてみましょう(A)。

この球ではたくさんの物質が層状に重なっています(A1)。それぞれの層は粒子の繋がりでできています(A2)。この粒子が中心の強い重力に引かれて落ちていくとします(A3)。

ブラックホールの大きさ(シュワルツシルト半径)は、より内側にある物質の質量(エネルギー)で決まります。

シュワルツシルト半径の内側に粒子が入ってしまったら、もう逃れることはできません。

しかし、このシュワルツシルト半径はホーキング輻射によって内側の物質がエネルギーを失っていくため、どんどん縮んでいきます。

落下した粒子がシュワルツシルト半径の近くまできたとき、落下と蒸発の効果が釣り合って粒子が落ちた分だけシュワルツシルト半径が縮まります。

すると、粒子は永遠にシュヴァルツシルト半径の内側には落ちない状態になります

まるでアキレスと亀のようなお話ですが、ここでは2つの速度が釣り合っているので、永遠に粒子は収縮するシュワルツシルト半径に追いつくことができません。

これが球状の物質のあらゆる場所で起きると、球はどんどん収縮して、内側は中身の詰まった高密度の物体になります(B)。これがブラックホールです。

そしてわずかに外側にある吸い寄せられた粒子の集まりはブラックホールの表面として観測されます。

これは重力で潰れていく球状物質の内部を、「半古典的アインシュタイン方程式(量子力学の効果を含むアインシュタイン方程式)」の解として構成することで得られた、新しいブラックホールのイメージです。

表面とシュワルツシルト半径の差はほぼ0に近いため、見え方は今まで考えられてきたブラックホールと変わりません。

しかし、この解には特異点が現れません。それはここで描かれるブラックホールが捕まったら脱出不可能となる事象の地平面を持たないことを意味しています。

また、真空の量子力学的効果で発生する大きな圧力が、この物質を支えていることがわかりました。

ブラックホールは新たな相

こうした新しいブラックホールのイメージはさらに興味深い考え方を提示しています。

球状物質が重力でつぶれ、高密度の物体(ブラックホール)になる様子は、極限的に重力が強まることで物質が凝集する過程と類似しています。

物質の凝集とは、例えば水蒸気(気体相)が水(液体相)へと変化するようなものです。

物質の3態。/Credit:depositphotos

最終的にブラックホールは蒸発すると理論的に予想されていますが、これは水になったものが再び水蒸気に戻ることと同じです。

こうした相転移は、あらゆる物質に普遍的に発生します。

つまり、ブラックホールとは液体や気体同様に、あらゆる物質が強い重力下で極限的にとる新たな状態「ブラックホール相」として捉えることができるのです。

未解決問題 情報パラドックスも解決できる?

強重力下ではどんな物体も極限的状態としてブラックホールになり、情報デバイスになる可能性がある。/Credit:理化学研究所

さらにこの研究の大きな成果は、ブラックホールが抱える情報問題を解決できるかもしれない点です。

ブラックホールは、吸い込んだ物質の情報を消失させてしまうのではないか? という話を先にしましたが、どういう原理かは不明なものの、ブラックホールは物質の情報をその表面に保持できる、ということが理論的に導かれています。

これはベッケンシュタイン・ホーキング公式と呼ばれていて、ブラックホールが蓄えることのできる情報量は、その表面積に比例するとされています。

ブラックホールは3次元空間の構造であるにも関わらず、蓄える情報量は表面積に比例するというのは奇妙な話です。

これはすべての3次元情報が2次元情報に置き換え可能だというホログラフィック理論に繋がっていきますが、ブラックホールの保存する情報問題については、完全に解明できておらず未解決問題として残っています。

しかし今回の研究が示す解では、物質がブラックホール内部にどの様に分布しているかがわかるため、その情報(波動関数)についても特定することができます。

ブラックホールが持つ情報量は、与えられたエネルギーや体積の下で、何パターンの波動関数が取り得るか? という形で表されます。

これを今回の研究から計算すると、情報がブラックホール内部で取り得るパターンの総数が、ベッケンシュタイン・ホーキング公式と一致するのです。

つまり、今回の研究が示したブラックホールの内部構造は、これまで知られているブラックホール外部の振る舞いと整合性を持っているのです。

このため、今回の研究を詳しく検証していけば、ブラックホールの情報問題(蒸発した後どのように情報が戻ってくるのか?)が解決できるかもしれないのです

新たらしいブラックホールの描く未来

Credit:depositphotos

今回示された新しいブラックホールのイメージでは、通常の星のようにブラックホールが表面を持つため、従来の「吸い込まれたら脱出不可能なブラックホール」とは異なる信号が検出できる可能性があります。

これは観測技術が向上すれば、ブラックホールの観測から今回の理論が検証できることを意味しています。

さらに内部構造を持つブラックホールが、元の物質の情報をどのように保存し、戻してくるかが今回の理論から明らかにされれば、遠い未来にはブラックホールを情報ストレージとして活用できる、という可能性も語られています。

さすがにブラックホール情報ストレージは壮大過ぎてよくわかりませんが、見えないブラックホールは、私たちがこれまでイメージしていたものとは、まるで異なる存在のようです。

一体ブラックホールの真の姿とは、どのようなものなのでしょうか?

それが明らかにされる日は、近いのかもしれません。

今回の研究は、理化学研究所の横倉祐貴氏と京都大学大学院の川合光教授の共同研究チームより発表され、論文は宇宙の原理に焦点を当てたオープンアクセスのオンライン科学雑誌『Universe』に6月4日付けで掲載されています。

Black Hole as a Quantum Field Configuration
https://doi.org/10.3390/universe6060077

ブラックホールからエネルギーを取り出せることが証明される!

reference: 理化学研究所/ written by KAIN
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