関節痛におさらばできる!? 膝軟骨を代用する「人工軟骨ゲル」が見つかる

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Credit:Benjamin J. Wiley
point
  • 天然膝軟骨と同じ特性を示す人工軟骨ゲルがつくられる
  • 人工軟骨ゲルは複数のポリマーの複合体であり、柔軟性と剛性を示す
  • 現段階で10万回の引張試験と100万回の摩耗試験をクリア

身体の一部である膝軟骨は、柔らかいクッションと頑丈なバリア特性を両立させており、忙しなく動く脚部の関節を保護してくれる稀有な生物学的物質です。

当然ながら膝軟骨の人工代替品を見つけることは難しく、科学者たちの課題となってきました。

ところが最近、米国デューク大学の化学者ベンジャミン・J・ワイリー氏ら研究チームは天然膝軟骨の特性と一致する「人工軟骨ゲル」を開発しました。

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これにより、関節の機能を完全に回復させられるかもしれません。

人工軟骨の必要性

長年膝を使い続けるなら軟骨は擦り減っていき、関節に痛みを与えます。放置するなら膝は変形(変形性膝関節症)し、歩行すら困難になるのです

軟骨は一度失われると再生しないため、変形性膝関節症の人は人工膝と交換する「膝関節置換術」を行うこともあるでしょう。

(左)正常な関節、(右)変形性膝関節症。膝軟骨が擦り減っている/Credit:depositphotos

米国では毎年79万件を超える膝関節置換術が行われています。日本でも手術件数は年々増加しており、現在では年間9万件以上にも上るのです。

しかし、手術が成功したとしても数十年後には再交換しなければいけません

そのため、軟骨の交換のみで済む「人工軟骨」の必要性は大きく、その開発は多くの人に恩恵をもたらすでしょう。

新しいハイドロゲルの開発

こうした背景にあって、ワイリー氏らは膝軟骨と同じ特性を備えたハイドロゲルを作成することに成功しました。

ちなみに、ハイドロゲルとは水を液体成分とするゲル状物質のことです。

この新しい素材の主な成分は吸水性ポリマーです。

吸水性ポリマーとは自重の数百倍から千倍までの水を吸収できる素材であり、その特性から紙おむつや生理用ナプキンなどに利用されています。

Credit:Benjamin J. Wiley

人工軟骨ゲルの場合、①1つの吸水性ポリマーはスパゲティのような紐状であり、②柔軟性が低く網状で負電荷を帯びた別のポリマーと絡み合っています。

さらに、③セルロース繊維(植物の主成分で作られた繊維)で作られたポリマーがそれら2つの素材を繋ぎ合わせる網の役割を果たしています。

新素材は人工軟骨に必要な柔軟性と剛性を示す

人工軟骨に必要なのは弾力のあるクッション性能です。「伸び」や「圧縮」を受けても元の形状に戻ることが大切なのです。

この点、新しい素材に使用されている材料は相互作用によって強いクッション性を示してくれます。

材料が伸ばされると、③がゲル状を保とうとしてくれます。逆に押しつぶされるときには負の電荷を帯びた①と②が互いに反発して水に付着するため、元の形状に戻ろうとするのです。

この新しいハイドロゲルは「伸び」と「押しつぶし」において既存のハイドロゲルよりも優れた性能を示しました。

研究チームの一員であるデューク大学材料科学者のファイケン・ヤン氏は「この3つの成分の組み合わせだけが、柔軟性と剛性の両方を兼ね備えているため高い強度を示す」と述べています。

(D)耐久テストの結果。上二つは単素材。一番下は3つの素材を合わせた新ハイドロゲル/Credit:Benjamin J. Wiley

実際、「10万回の引張試験」をクリアし、この素材が人工骨に使用される多孔質チタンと同様の強度であることを示しました。

また、「人工軟骨ゲルを天然軟骨と擦り合わせる」試験では、100万回以上擦り合わせた結果、本物と同様の耐摩耗性が認められました。これは現在、外反母趾(親指の変形)手術に使用されている人工軟骨よりも耐久性が高いことを示しています。

このように人工軟骨ゲルは高い性能を示していますが、実際に人間の体への使用が承認されるには最長で3年かかると言われています。

現在、人工軟骨ゲルの非毒性は培養細胞でのみテストされており、次のステップでは、羊に安全に移植できるかを試す予定です。

人間への人工軟骨移植までの道のりは遠いですが、実現の可能性は十分あります。数年後には、人工軟骨ゲルによって関節機能を完全に回復できているかもしれません。

この研究は6月26日、「Advanced Functional Materials」に掲載されました。

A Synthetic Hydrogel Composite with the Mechanical Behavior and Durability of Cartilage
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/adfm.202003451

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reference: sciencealert / written by ナゾロジー編集部
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