未知の天体「プラネット・ナイン」を1年以内に検出する!? 太陽系ブラックホール観測計画をハーバード大が発表

space 2020/07/14
プラネット・ナインの想像図。右上は太陽と海王星軌道。/Credit:ESO/Tom Ruen/nagualdesign
point
  • 太陽系外縁の未発見の天体「プラネット・ナイン」は惑星質量の原始ブラックホールだという予想がある
  • バーバード大学の研究チームは、最新望遠鏡LSSTを使い、太陽系ブラックホールの検出を行う計画を発表した
  • この観測プログラムでは、1年以内にプラネット・ナインをブラックホールとして検出または除外できる

ちょっと前まで、太陽系の第9惑星と言えば「冥王星」でしたが、残念ながら彼は岩の塊に降格されたため、太陽系第9惑星のポストは現在空席になっています。

この空席に収まる可能性のある天体が、2016年頃から科学者の間で囁かれるようになりました。

それが「プラネット・ナイン」と呼ばれる未知の天体です。

重力的な影響から考えると、太陽系外縁には地球の10倍程度の質量を持った、巨大天体が存在する可能性が高いと言われています。

「プラネット・ナイン」はその名の示す通り「巨大惑星」というのが大方の予想です。しかし、それが惑星ではなくブラックホールかもしれない、と予想する研究も発表されています。

さすがに太陽系にブラックホールは無いだろう、と思う人も多いかも知れません。

しかし、71年にホーキング博士は宇宙初期に恒星の崩壊以外で誕生した原始ブラックホールという存在を予想していて、理論上1億分の1kgという質量もあったというのです。

ただ、予想されるような地球の10倍程度の質量のブラックホールは、サイズにするとボーリング玉くらいしかないと言われており、それを確認することは不可能だろうとされていました。

しかし、これを発見する観測計画をハーバード大学の研究チームが発表したのです。

『The Astrophysical Journal Letters』への掲載も決まったこの論文によると、最新鋭の望遠鏡「大型シノプティック・サーベイ望遠鏡」を使って、観測開始から1年以内にプラネット・ナインをブラックホールとして検出、またはその可能性が除外できるといいます。

この計画が実行されれば、本当に太陽系に惑星質量のブラックホールが見つけ出せるかもしれません。

プラネット・ナインの存在を示す証拠

現在太陽系のもっとも外側を回る惑星は海王星と考えられていますが、そのさらに向こう側には太陽系外縁天体と呼ばれる、太陽系の軌道に属する惑星未満の岩の塊が回っています

この外縁天体は、非常に偏った楕円軌道を描いていることがわかっていて、地球質量の5倍から15倍の質量を持った物体によって運動を乱されているようだと指摘されています。

その謎の物体を科学者たちは「プラネット・ナイン」と名付けて探しているのです。

「プラネット・ナイン」は、存在するとすれば海王星軌道の20倍、700天文単位(地球と太陽の距離を1とした距離単位)の半径を持つと考えられていて、1万年から2万年かけて太陽の周りを公転していると予想されています。

太陽系外縁天体の軌道とプラネット・ナインの軌道(赤点線)。/Credit:Wikipedia Commons /nagualdesign

「プラネット・ナイン」の存在について、最初に言及した論文は2016年に発表されました。その後観測や調査が進められましたが、光学観測での発見には至っていません。

しかし、重力マイクロレンズ効果による光の歪みなど、惑星サイズの重力を持つ天体が銀河から届く光を短く歪めていることも発見されており、おそらく「プラネット・ナイン」は存在するだろうと考えられています。

では遥か遠方の天体も観測可能な現代に、なぜ「プラネット・ナイン」はいつまでも発見することができないのでしょうか?

数グラムでも形成可能! 原始ブラックホールとは?

Credit:NASA / JPL-Caltech

科学者たちの間で「プラネット・ナイン」は原始ブラックホールではないか? という予想が立てられています。

原始ブラックホールとは、71年にホーキング博士が予想した初期宇宙で誕生したブラックホールです。

よく天文学で初期宇宙というと、ビッグバンから数億年といった「どこが初期なの?」というスケールで語られることが多いですが、この理論における初期宇宙はビッグバンから1秒以内を指しています。

この高圧高温の初期宇宙では、大きな密度の揺らぎが生まれたとき、その領域が重力崩壊してブラックホールが生成されていたと考えられるのです。

一般的な認識では、ブラックホールは星の崩壊によって生まれるもので、巨大な質量がなければ形成できない印象があります。

しかし、実際ブラックホールは、ある質量の物体がある半径(サイズ)より小さく収縮した場合形成されるもので、必ずしも巨大な質量がなければ形成できないというわけではありません。

地球質量の場合半径9mm程度、太陽質量なら半径3km程度に圧縮されると、その物質はブラックホールになってしまいます。

このある質量の物体がブラックホール化する半径が、シュワルツシルト半径です

現在の宇宙でこれほどの高圧高密度の状態が達成されることはありませんが、ビックバン一秒以内の初期宇宙では、理論上1億分の1kgという質量でもブラックホールが形成可能だったと考えられています。

これが原始ブラックホールです。

ブラックホールは、ホーキング放射(またはホーキング輻射)という現象によって蒸発しています。

そのため、理論上の最小サイズのブラックホールはもう生き残ってはいませんが、地球質量レベルならば、宇宙初期から現代まで安定して存在を保っているだろうと考えられています。

しかし、この惑星質量の原始ブラックホールは理論上の存在で、実際に発見されてはいません。

プラネット・ナインは発見できるのか?

もし「プラネット・ナイン」が地球質量の10倍程度の原始ブラックホールだった場合、その大きさはボーリング程度になってしまいます

こうなると、光学的な放射を見つけることは難しく、赤外線探査や一般的なブラックホールの検出に使われるガンマ線観測でも検出することは非常に難しいと考えられます。

しかし、今回ハーバード大学の研究チームが発表した方法なら、ブラックホールのプラネット・ナインを検出することが可能だというのです。

そのために利用されるのが、チリのパチョン山に建設が予定されている大型シノプティック・サーベイ望遠鏡 (Large Synoptic Survey Telescope: LSST) です。

建設中のLSST。/Credit:en.Wikipedia

LSSTは非常に広い視野をもって、空の広域を調査することが可能な望遠鏡です。

通常の望遠鏡は天体を発見するために、特定の見るべき領域を指定しなければなりません。しかし、LSSTを使えばわずか3晩で空の全域を調査することができるのです。

論文の筆頭著者であるハーバード大学生のAmir Sirajによれば、ボーリング玉サイズのプラネット・ナインでも、太陽系外縁にあるオールトの雲からやってくる彗星の出す塵やガスによって降着フレアを起こす、とされています。

これは非常にかすかなもので、具体的にどこに存在するかも明確でない天体の降着フレアを発見するのは至難の業ですが、LSSTなら可能になるだろうといいます。

「週に2回も空の全域を調査可能なLSSTの機能は非常に価値があります。どこにあるか正確にわからない小さな天体の僅かな光であっても、この能力があればカバーできます」

一般的に巨大なブラックホールの降着フレアは稀にしか発生しません。しかし、非常に小さなブラックホールが存在する場合、その降着フレアはもっと頻繁に発生するだろうと予想されています。

1年間に複数の降着フレアが観測できれば、その位置の変化を追うことで、プラネット・ナインの軌道も特定できます。

「プラネット・ナイン」が原始ブラックホールなのかは、まだ明らかではありません。しかし本当に、こんな身近に地球の数倍程度の原始ブラックホールが存在しているとしたら、それは世紀の大発見となります。

遠いとはいえ、太陽系外縁は決して到達不可能な距離ではないため、このとき初めて、人類は間近でブラックホールを観測する機会を得るのかもしれません。

研究は、この観測を実行すれば、1年以内にプラネット・ナインの検出、もしくはブラックホールという可能性の除外ができるとしています。

思いの外早い成果に期待が高まります。

なお、観測の肝となるLSSTは2020年稼働予定ですが、現在は建設中の状況です。また、LSSTはアメリカ天文学会の2020年冬季年会で、正式名称がヴェラ・ルービン天文台(Vera C. Rubin Observatory:VRO) と決定されました。

ヴェラ・ルービンは、暗黒物質の存在を観測により示した女性天文学者の名前で、天文台の名称は彼女の名にちなんでいます。

今後は、この望遠鏡の名前が出るときは、VROと呼ばれているかもしれません。

この研究は、ハーバード大学の研究チームより発表され、論文は『The Astrophysical Journal Letters』への掲載が予定されています。現在はプレプリントサーバーarXiv上で閲覧可能です。

Searching for Black Holes in the Outer Solar System with LSST
https://arxiv.org/abs/2005.12280

「事象の地平面」を持たない新たなブラックホールの姿が理論的に導かれる。 情報問題も解決可能

reference:universetoday,CfA/ written by KAIN
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