ウイルスには外に出たがるアウトドア派と引きこもるインドア派がいた。数学から導かれた繁栄戦略

mathematics 2020/08/02

Credit:pixabay
point
  • 感染後のウイルスは、細胞内に留まり複製を続けるか、新たな感染先を探すかの2つの戦略を持つ
  • 新たな研究は、2つのC型肝炎ウイルスを使った感染実験を実施し、数学的に解析
  • 結果ウイルスには「インドア派」と「アウトドア派」のような個性があることが判明した

ウイルスは遺伝情報を運んでいるだけで、自らは増える能力を持っていません。

そのため生き物の細胞が持つ、遺伝子を複製する機能を奪って増殖していきます。

ここで、ある細胞に感染したウイルスには2つの選択肢が生まれます。それは「このまま感染者の体内に留まってせっせと複製を作り続けるのか」、あるいは「外へと旅立って新たな感染先を探すのか」です。

ウイルスは非常に小さく、思考する力を持つわけではありませんが、彼らにも繁栄するための戦略があるはずです。

ウイルスたちの戦略を理解することは、効果的な治療薬開発のために重要です。

新たな研究は、そんなウイルスたちの振る舞いを生物学と数学を組み合わせて評価しています。

その結果によると、どうもウイルスには「外に出たがるタイプ」と「うちにこもりたがるタイプ」という個性があるようです。

内政か? 侵略か?

ウイルスが細胞に感染し、自らの複製を作る方法を手にしたとき、彼らはコピーの遺伝子構造に2つのオプションを選択できます。

それは、さらに細胞内に留まり続けてより多くのコピーを作成するため働かせるか、パッケージ化して放出し新たな細胞へ感染を広めるかです。

これは戦略シミュレーションゲームにおいてプレイヤーが「内政向けのユニットを作って地盤を固めるか」、それとも「開拓ユニットを作って積極的に領土を広げるか」を選択するのに似ているかもしれません。

CIVILIZATION VI./Credit: Take-Two Interactive Software, Inc.

こうした選択をするとき、ゲームならプレイヤーは使える資源、時間などのコストからどちらに重み付けをするかという戦略を立てるはずです。

こうした戦略は個々のウイルスでも機能しているはずですが、これまでの科学ではそんなウイルスの繁栄戦略の存在を示すことは困難でした。

ウイルスの挙動を数学的にモデル化

研究グループはウイルス繁栄戦略を明らかにするため、2つのC型肝炎ウイルス(HCV)株を使って感染実験を行いました。

1つは患者から採取された臨床分離株。1つは実験室で遺伝子組み換えされた実験室株です。

実験室株は、抗ウイルス剤やワクチンの開発などで大量のウイルスが必要となったときに使用されるもので、細胞内で増殖したウイルスの放出プロセスが臨床分離株とは異なっていました。

そこで、この2つのウイルス株を複製と放出の比較に利用したのです。

感染細胞内のC型肝炎ウイルスゲノムの二つの運命。/Credit:日本医療研究開発機構

研究者たちは感染細胞を培養して、得られた実験データをもとにウイルス生活環の数学的モデルを作りました。

ウイルス生活環とは細胞に感染して、複製を作り、そこから感染性ウイルスを放出するまでの一巡を指します。

結果、臨床分離株は細胞に留まってRNAの複製をより強固に増やすことに専念し、実験室株は細胞内での複製はそこそこに行い、積極的に複製したウイルスを放出する道を選んでいることがわかりました。

これにより実験室株は、臨床分離株より1.82倍も速く感染が広がり、感染細胞を使って2.7倍も速くウイルスを生成していたのです。

これはウイルスによって、うちに籠りがちな「インドア派」と、積極的に外へ出ていこうとする「アウトドア派」のような個性があるものだ、と研究のプレスリリースでは表現されています。

先のゲームの例えでいうなら、プレイヤーの性格によって内政重視と開拓重視に遊び方が分かれるようなもので、ウイルスにもそうした個性があるということでしょう。

ウイルスたちは個々にこうした異なる戦略を使い分けて生存していたのです。

これを数学モデルで見た場合、インドア派のウイルスは「増えやすさ」を示す指標の値が、アウトドア派のウイルスは「伝播しやすさ」を示す指標の値が、それぞれ最大に近づくように振る舞っていたのです。

ウイルスたちの繁栄戦略

インドアウイルスである臨床分離株は、細胞内RNAを優先的に増幅に振り分けていました。これによりこの株は効率的に細胞内にウイルスを蓄積させていきます。

このウイルスは急速なウイルス複製によって、感染者に重度の炎症を伴う劇症肝炎を引き起こしていました。

一方、アウトドアウイルスである実験室株は、慢性肝炎を引き起こす患者から分離されたウイルスが元になっています。この株は、複製は中程度に留めながら持続的な感染を確立させるという長期戦略によって、感染細胞の強い広がりを伴っています。

細胞の炎症を伴うような劇症のウイルスと、治りにくい慢性的な症状をもたらすウイルスは、こうした彼らの繁栄戦略の違いから生み出されているようです。

ウイルスの増殖戦略の特徴を理解することは、彼らを効果的に駆逐するために非常に重要な知見になるでしょう。

しかしどの戦略をとるにせよ、人間にとって面倒な相手なのは変わらなさそうです。

この研究は、九州大学及び国立感染症研究所の共同研究として発表され、論文は生物学に関する学術誌『PLOS Biology』に7月30日付けで掲載されています。

Should a viral genome stay in the host cell or leave? A quantitative dynamics study of how hepatitis C virus deals with this dilemma
https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.3000562

米国で新型コロナウィルス対策の「お出かけリスクチャート」が作られる。 個人が正しくリスク管理することが大切

あわせて読みたい

SHARE

TAG