【5分で読める物語】SFショートショート「つたないプロペラ」

science_technology

credit: イラストAC

「SFショートショート」という小説のジャンルがあります。

その名の通り、小説の中でもとくに短い作品を「ショートショート」と呼び、その魅力は短いながらもふしぎな要素や、衝撃的な結末が描かれている点にあります。

そんなふしぎを表現するショートショートは、SF(サイエンスフィクション)との相性がよく、AIやロボット、VR、まで近未来の科学技術をテーマにした作品が多く存在しています。

ナゾロジーでは空想ではない、実在する最新のサイエンスやテクノロジーを皆さんにお伝えしていますが、その息抜きとして「5分で読めるSFの世界」を堪能してみてはいかがでしょうか。

SFショートショート「つたないプロペラ」

credit: pixabay

ママはいつもター君にこんなことを言った。

「特別な能力を持った人は、特別な責任と使命があるの」

3才の頃だ。 頭を探ると突起物のようなものがある。 鏡に映してもその突起物はなぜか見えない。

さて…

「ママ、これ、なあに?」

ター君は頭の突起物を指さしながらママに質問をした。

「それはプロペラよ」

「プロペラ?」

「そう、羽が付いていてそれを回すと風が吹いたり、空を飛べたりできるの」

「へぇ〜」

「でもね、このことは、ター君とママとの秘密よ。決して他の人に知られてはいけないの」

「なんで?」

「それはね。あなたが特別な人間だからよ。特別な人間には特別な責任と使命があるの」

「責任って何? 使命って何なの?」

「今はわからないかもしれないけど、あなたは地球を守るヒーローなのよ」

credit:pixabay

8才になった。ター君はママに内緒でプロペラを使っている。ター君は鬼ごっこやかくれんぼで鬼になると、密かにプロペラを使って、誰がどこに逃げているのかがすぐにわかるのだ。

「ター君って、すごい!」

そんなター君をいつも見つめている女の子がいた。

名前はさっちゃん。近所の幼なじみで、いつも熊のぬいぐるみのプーちゃんを抱えていた。シャンプーの香りがする髪の長い女の子で、ター君と同い年なのになぜか色っぽくて、 ター君はさっちゃんの視線を意識するようになっていた。

「ター君、がんばって」

「うん」

ター君は、さっちゃんが見ているときはいつもより早く友達を追いかけたり、プロペラを使っていつもより高くジャンプしたりして、さっちゃんの前ではカッコよく見せようと シャカリキになっていた。

そして、いつしか二人はお互いを異性として意識し、恋心を抱くようになり、バレンタインデーやホワイトデーにはチョコレートやキャンディーを交換する間柄になった。

「どうしたの、ター君。最近、楽しそうね」

ママがニヤニヤしながら声をかけた。

「べっ、べっ、別に何でもないよ」

ター君は恥ずかしそうに口ごもる。

「ヒーローに初恋が訪れたのかな?」

照れながら慌てて家を飛び出していくター君の背中を、ママはあたたかく見守っていた。

credit:pixabay

そんなある日、近所にある廃墟になった工場の空地でター君は友達に囲まれ、リーダー 格の健太ににらまれていた。

「イカサマしてんじゃねえぞ!」

「そんなことしてないよ」

「じゃあ、なんで俺たちの居場所がすぐにわかるんだ」

「それは…」

ター君がさっちゃんを意識するあまりプロペラを使う回数が多くなり、友達がター君のイカサマを疑いだしたのだ。ター君が答えにつまっていると、さっちゃんが健太の前に立ちはだかった。

「私が教えてるの」

「はぁ?」

「私が工場の上からみんなの居場所を見ていたの」
さっちゃんは工場の非常階段の上を指さした。

「お前のせいか。余計なことすんな」

健太はさっちゃんの頭を力強く小突いた。

するとター君のプロペラが無意識に「ブルルン」と急作動し、「俺の彼女に何すんだ—っ」 と叫びながらター君は空高く飛び上がり、健太の頭を勢いよく蹴り上げた。

「ギャーーーーッ」

後ろに倒れこみながら驚く健太たちをよそに、ター君はさっちゃんの手を引いて工場の中へと逃げていった。

「大丈夫か、さっちゃん」

息を切らしながら階段に座り込むター君とさっちゃん。

「さっきはかばってくれてありがとう」

「ううん。私のために戦ってくれたんだもん。ター君、かっこいい!」

ター君はさっちゃんの言葉に顔を赤らめていると、さっちゃんが急に首をキョロキョロしはじめた。

「あっ、プーちゃんを落としてきちゃった」

「プーちゃん?」

「熊のぬいぐるみ。お母さんの形見なの」

さっちゃんは悲しそうな目でター君を見た。

「わかった。おいらが取りに行ってくるからここで待ってて」

ター君がプロペラを使って急いで空地に戻ると、健太たちは工場の横にある焼却炉に火をつけていた。

「こんなもの、捨ててやる」

健太がさっちゃんのぬいぐるみを焼却炉に投げ入れようとした瞬間、

「やめろーっ」

ター君は火を消そうと、プロペラを早回転させて焼却炉に突風を送り込んだ。すると、 火は余計に燃え上がり、勢いのついた火柱が工場全体を包み込んでいった。

「あっ、さっちゃんが中に」

ター君は熊のプーちゃんを拾いあげると「さっちゃーん!」と叫びながら、燃え盛る工 場の中にプロペラを急発進させて突入していった。

―――翌日

分解されているター君の横でぬいぐるみのプーちゃんから小型カメラを取り出している ター君のママがいた。

「今回の実験で、AIにも恋愛感情が芽生えることがわかりました」

ター君のママはヘッドセットで会話をしながら、その小型カメラをパソコンにつなげた。 「ター君以外の人物や工場、火事などはすべてバーチャルですが、現実世界での彼氏ロボットの商品化は可能かと思われます。まずは映像データを送りますので、このAIロボッ トがどのように恋心をいだき、どのように護身用として役立つのかをご覧ください」

 

「つたないプロペラ」written by エピロー具
あわせて読みたい

SHARE

TAG