バッタを「巨大な群れ」にする原因物質が特定される!

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モーセがエジプトにもたらした第8の災厄に4VAは使われていたのだろうか?/Credit:Logos Ministries
point
  • これまでは何がバッタを群生化させるかはわかっていなかった
  • しかしバッタから放出される4-ビニルアニソール(4VA)が群集化・集合シグナルだと判明した
  • 群集化シグナルを使ってバッタを一か所に集めて一網打尽にできるかもしれない

バッタに群れを作らせる特殊な化学物質が発見されました。

バッタ(トノサマバッタ)は通常、グループを作らず単独で生活していますが、時として「群生型」と呼ばれる特殊な形態に身体を変化させ、巨大な群れを作って人間社会を混乱に陥れます。

特に今年は深刻で、大雨が続いたアフリカやアジアではバッタが大発生し、あらゆる農作物を喰いつくしているのです

何億匹ものイナゴが群れて移動する様子は黙示録的だとも言えるでしょう。

実は旧約聖書をはじめとして、多くの歴史的文献にバッタによる災厄が神の下した罰として記されています。

普段は無害なバッタが突然、巨大な群れとなる原因は全くの謎であり、古代の人々は人ならざる者の仕業だと考えていたようです。

ですが今回、バッタの群れを誘発する原因物質が特定され、歴史的な謎が解明されました。

鍵となっていたのは、バッタの体から放出される「4-ビニルアニソール(4VA)」と呼ばれる特殊な化学物質でした。

4VAはバッタが4〜5匹集まると放出され、周囲のバッタを呼び寄せる効果があったのです。

また呼び寄せによってバッタの密度が増加するにつれて4VAの濃度は急上昇し、さらに巨大な群れを誘因するようになったとのこと。

これら研究内容は世界で最も権威ある学術雑誌「Nature」に掲載されました。

しかし、バッタを群れさ変異させる4-ビニルアニソール(4VA)とは、いったいどんな物質なのでしょうか?

トノサマバッタは群生化すると外見と行動パターンが変わる

群生相になると狂暴化して何でも食べるようになる/Credit:多摩動物公園

古代の人間はバッタの群集化を超常的な存在のせいだとしていました。

しかし科学の発展により、原因を神の罰から、何らかの集合フェロモンが原因であると考えられるようになります。

ただフェロモンのような揮発性(しかも未知の)物質の検知は難しく、今日に至るまで群集化のトリガーとなる原因物質を特定できずにいました。

そこで今回、研究者は網羅的な手法をとることにしたとのこと。

研究者はバッタの体や糞から放出されていたあらゆる揮発性物質を収集し、単独で生活するバッタと、群生型のバッタに違いがないかを調べたのです。

結果、6種類の化学物質が単独のバッタよりも群集性のバッタで多く放出されていることがわかりました。

研究者はこの6種のうちのいずれかが群集化フェロモンに違いないと考え、各化合物がバッタに及ぼす影響を調べました。

結果、4-ビニルアニソール(4VA)と呼ばれる化学物質が群集化に関与していることが判明します。

4VAは幼虫から成体まで、単独型・群生型を問わず、集合の性質を持つ、あらゆるバッタを引き付ける効果があることがわかったのです。

人にとっては甘い香りがする/Credit:TCI

4VAは上の図のような構造をした、揮発性のある有機化合物で、ヒトには甘い匂いとして知覚されます。

これまでにも4VAは、バッタの体やバラなど一部の植物に含まれていることが知られていましたが、群集化作用のあるフェロモンとしての役割がみつかったのは今回がはじめてとなります。

4VAは狭い範囲に4個体以上のバッタがいるとき多く発せられる/Credit:nature

次に研究者はバッタがどのような条件の下で4VAを発するかを調べました。

その結果、4〜5匹バッタが狭い空間で密集した時に4VAが放出されはじめることを発見します。

またバッタの集団規模が大きくなるほど4VAの濃度が急上昇し、さらに大きな群集化シグナルとして周囲のバッタを呼び集めることがわかりました。

バッタの群れは指数関数的に成長することが知られており、この集まれば集まるほど強く放出される4VAが群集化の中心的な役割を果たしていると研究者たちは推測しました。

そしてこの推測を検証するために、バッタが4VAを感知するために使っている、嗅覚遺伝子(Or35)を破壊してみたそうです。

もし4VAが本当に群集化のシグナルとなっているなら、感知するための嗅覚遺伝子(Or35)を壊されたバッタは4VAに引き寄せられないはずです。

そして結果は予想通りとなり、嗅覚遺伝子(Or35)を破壊された変異体は、4VAが発せられても群集化しなかったのです。

4VAを塗った粘着シートは多くのバッタを捕らえた

4VAを使った粘着シートによる罠/Credit:nature

現在、巨大化したバッタの群れを排除するために、主として殺虫剤が用いられています

ですが結果は焼石に水と言わざるをえません。

畑にわく害虫とは異なり、バッタの群れは移動するからです。

空中に散布した殺虫剤は、外気によってあっという間に希釈され効果が減少する一方、場合によってはバッタ以外の益虫も殺すことになってしまいます。

しかし今回の研究によってバッタとの闘いは新たな局面を迎えることになるでしょう。

4VAはバッタにとって群集化を促す武器である一方で、罠のエサとして使うことができるからです。

すなわち、人工的に合成された大量の4VAを使ってバッタの群れを一か所に誘引し、僅かな量の殺虫剤で一網打尽にすることができるかもしれません。

実際、今回の研究においても4VAと粘着性のトラップを組み合わせた装置が試作され、野生のバッタを短時間で大量に捕獲することに成功しています。

野生のバッタは研究者が作った4VAに引き寄せられ、ゴキブリホイホイのような粘着トラップに次々とかかっていったのです。

ですがこれら直接的な退治はどんなに効率化できても、コストがかかります。

そこで研究者は4VAを感知する嗅覚遺伝子(Or35)を破壊した変異体を野生に解き放つ方法を提案しています

もし変異体が野生で大きな比率を占めるようになれば、群集化の起こる回数や規模を縮小できるかもしれません。

ただこの方法は野生生物に対する強制的な遺伝子書き換えにほかならず、長期的な結果が予測不能です。

そのため次善の策として、バッタの嗅覚を破壊する薬もあげられています。

いくら効率化されても、殺虫剤はバッタを直接的に殺すために非常に高い選択圧(進化の圧力)を生じさせ、いつかは耐性をもったバッタが生まれるでしょう。

人類は殺虫剤に変わる新しい害虫対策を実行しなくてはならないのかもしれません。

 

研究内容は中国、有害生物とげっ歯類の統合管理の国家主要研究所のXiaojiao Guo氏らによってまとめられ、8月12日に世界で最も権威ある学術雑誌「Nature」に掲載されました。

4-Vinylanisole is an aggregation pheromone in locusts
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2610-4

前代未聞の「爆発物探知バッタ」が誕生する

reference: sciencenews / written by katsu
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