お腹を壊さずに牛乳を飲める能力「乳糖耐性」は、紀元前1200年のヨーロッパから急速に広まった

history_archeology

Credit: Stefan Sauer / Tollense Valley Project

 

お腹を壊さずに牛乳を飲むには、乳糖を分解・消化できる「乳糖耐性(ラクターゼ活性持続)」が必要です。

現在でも世界人口の約3分の2が乳糖耐性を持たないままですが、ヨーロッパや北米、日本では盛んに牛乳が消費されています。

一方で、人類がいつ、どのように乳糖耐性を獲得したのかはよく分かっていませんでした。

ところが、9月3日付けで『Current Biology』に掲載された研究によると、乳糖耐性の遺伝子は、紀元前1200年頃の中央ヨーロッパから急速に拡散し始めたことが示唆されました。

しかも、その拡散スピードは、人類における他の遺伝的な進化速度に比べて異様な速さだったようです。

「乳糖耐性」はヨーロッパ人に多い

Credit: jp.depositphotos

実は一般に、ヒトを含むすべての哺乳類は、大人になると牛乳を消化できなくなります。ですから、成長した犬や猫にはミルクを与えない方が懸命でしょう。

原因は、小腸で「ラクターゼ」という酵素が働かず、牛乳に含まれる「乳糖」が分解されないことです。

しかし、人類の一部は、遺伝子の突然変異のおかげで、一生を通じて牛乳を飲めるようになりました。

突然変異の発生源の大半が、中央ヨーロッパや北欧の人たちでした。

紀元前1200年頃の乳糖耐性率は「8人に1人」

ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の研究チームは、ヨーロッパ人に乳糖耐性が強く見られる理由を確かめるため、ドイツ北東部のトレンゼ川のほとりで大量に出土した人の遺骨を調べました。

これらの遺骨は、紀元前1200年頃に起こった戦闘で亡くなった人々のもので、およそ4000名が参加し、その4分の1が命を落としてこの地に眠っています。

トレンゼ川の遺跡/Credit: Tollense Valley Project

同チームは、遺骨から採取したDNAを分析し、そのデータをのちの中世ヨーロッパの人々と比べてみました。

その結果、乳糖耐性の遺伝子を持つ兵士の割合は、わずか8人に1人と判明しています。

これはヨーロッパに家畜農業が導入されてから4000年以上経っていることを考えると、かなり少ない数字です。

トレンゼ川で出土した兵士の遺骨/Credit: Tollense Valley Project

中世ヨーロッパでは60%まで激増

ところが、それから2000年後の中世ヨーロッパ人の遺伝子を見てみると、およそ60%以上の大人が乳糖耐性を持っていました。これは現代の中央ヨーロッパに見られる70〜90%という数字に非常に近いです。

研究主任のクリシュナ・ビーラマ教授は「この結果は、牛乳の消化をコントロールする遺伝子の獲得が人類の中で異常に急速に進んだことを示している」と指摘します。

トレンゼ川で出土した兵士の遺骨/Credit: Tollense Valley Project

それと同時に、乳糖耐性を持っている中世のヨーロッパ人は、そうでない人に比べ、出産率が6%高いという結果も判明しました。

これは乳糖耐性の遺伝子が、人類の繁栄において明らかに有利に働いたことを証明しています。

人類はなぜ乳糖耐性を取り戻した?

それでも、人類がなぜ乳児期の後に、再び乳糖耐性を取り戻したのかは分かりません。

可能性のひとつとして、同チームのヨアヒム・バーガー氏は「牛乳は、かつてのヨーロッパにおいて、高エネルギーで比較的汚染されていない飲み物でした。そのため、食糧不足や飲み水の供給源が汚染されていたときに、人々が生き延びる重要な飲み物となったのかもしれません」と主張しています。

いずれにせよ、乳糖耐性を取り戻したおかげで、料理の幅が大きく広がったことも確かでしょう。

あわせて読みたい

SHARE

TAG