イソギンチャクの触手の数は遺伝子ではなく「エサ」で決まるという研究結果

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最初の4本の触手が生える様子を真上から見たもの/Credit:Nature communications

 

reference: sciencedaily

私たち人間の手が2本、足が2本であるのも、昆虫の脚が6本であるのも、体の設計図たる遺伝子にそう作るように書かれているからです。

しかし9月2日に学術雑誌「Nature communication」に掲載された研究では、イソギンチャクの触手の数は遺伝子ではなくエサの豊富で決まることが明らかになりました。

体の構造を遺伝子ではなく環境要因で決定するのは、極めて合理的と言えます。

しかし、イソギンチャクはどうやって遺伝子に頼らずして、自らの体の構成を決定しているのでしょうか?

触手の謎

今回の研究に用いられたイソギンチャク(Nematostella vectensis)は標準で12本の触手をもつようになる/Credit:Nature communications

イソギンチャクは刺胞動物と呼ばれる区分の生物であり、触手の細胞内部には微小な針が封じ込められています。

この細胞内部の針は、獲物に反応して射出される機能があり、獲物を針で刺すことで刺し殺して捕食します。

なお、この針には毒を内部に含ませているものもあり、大きな魚など天敵に対する防御にもなっています。

また意外にも、イソギンチャクの中には岩に固着したままでなく、下部にある吸盤を器用に動かして移動できる種も存在します。

寿命も長いものでは65年以上も生きていた個体も存在するとか。

そんな研究心をくすぐられるイソギンチャクですが、中でも最も研究者を悩ませていた謎は触手の数でした。

というのも、同じイソギンチャクの種類であっても、個々の個体が持つ触手の数はまちまちであったからです。

そこでドイツの研究者はこの長年の謎を解明するために、様々な生育条件でイソギンチャクを育て、触手の数の決定因子を探索しました。

結果、意外な事実が判明します。

触手の数は遺伝子では決まらずエサの豊富さで決まる

エサが豊富な場合、最初の4本から標準の12本を超えてさらに触手が増えていく。ただし新たな触手は常に2本ずつ対になって生成されるためイソギンチャクの触手は常に偶数である/Credit:Nature communications

実験を進めた結果、イソギンチャクの触手の数を決めていたのは遺伝子ではなく、エサの豊富さであることがわかりました。

また幼年期からの継続的な観察によると、新しい触手が成長するのはイソギンチャクが幼いときだけはないようです。なんと大人になってからでも、環境によって触手の数を増やせることも判明しています。

また上の画像のようにイソギンチャクの触手は常に2本ずつ対になって生成されるために、常に触手の数は偶数になっています。

もし人間でも同じことができるなら、食べれば食べるほど腕や足が増えてしまうことになるでしょう。

触手の数を決めるシグナルが存在した

触手をはやすためのシグナル遺伝子を破壊された変異体は触手ができない/Credit:Nature communications

また遺伝学な手法により、イソギンチャクの新たな触手を獲得する過程も調べられました。

結果、イソギンチャクの筋肉細胞には、細胞内の栄養に反応して遺伝子の発現を変化させるシグナル(Fgfrb)が存在していることがわかりました。

このシグナルは、エサが豊富であるとスイッチがオン状態になり、イソギンチャクに触手を作らせます。

また研究者は、上の図のように触手数を決定するシグナル遺伝子を破壊した変異体も作成しました。

結果、変異体は大人になっても触手を生やすことができず、ほぼ筒状の形態に留まっています。

興味深いことに、このシグナルは私たち人間にも存在します。

ただ人間の場合、このシグナルが働く期間は胚発生段階に限られており、シグナルの調整が入る場所も(幸い)手足の数ではなく、内臓となっています。

人間におけるこのシグナルは、胚発生時期に胎児が受け取る栄養の量を、胎児の内臓形成に何らかの形でフィードバックしていると考えられます。

環境に対応して体の形態を変える

エサを与えると、白い矢印の部分から新たな触手がはえてくる。なお触手は常に対で生成される/Credit:Nature communications

食べ物の豊富さなど環境要因に対応して体の形態を変える能力は、運動能力の低いイソギンチャクにとって非常に有利になると考えられます。

エサが少ない間は省エネ状態にし、エサが増えると触手を増やして食べる量も増やすというシステムは非常に合理的です。

もし、環境に応じて遺伝子の働き方を変えるシステムが医薬品に応用され、酸素呼吸能力や筋力などを自在に変化させられるようになれば、人間の活動限界をさらに押し上げられるかもしれません。

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