雲や霧で”散乱した光”を集めて、向こう側を「透視する」方法が開発される。

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散乱光を読み取る機器のイメージ
散乱光を読み取る機器のイメージ/Credit:Stanford Computational Imaging Lab

霧や雲などがあると、その向こう側は当然見えなくなります。

これは光が散乱してしまうせいですが、スタンフォード大学の研究チームが9月9日付けで科学雑誌『Nature Communications』に発表した論文では、そんな散乱光を全て集めて再構築するアルゴリズムが報告されています。

この技術を使えば、災害地で作業するロボットや、街中を走行する自動運転車、雲越しに地表を観察する人工衛星などが、視界を遮られずにものを見れるようになるのです。

人には見えないものを見る技術、それはどのようなものなのでしょうか?

散乱光を再構築するアルゴリズム

発泡材越しにレーザーを照射している実験画像
発泡材越しにレーザーを照射している実験画像。/Credit:Stanford Computational Imaging Lab

不透明な障害によって向こう側が隠されている場合、光はその障害物にぶつかって反射したり、通り抜けたとしてもほとんどが散乱してしまうため、見通すことはできません。

しかし、レーザー光は障壁にぶつかっても、いくつかの光子は通り抜け向こう側の物体にぶつかっています。その中のさらに少ない一部の光子が、再び障壁を通り抜けて戻ってきます

これは非常にわずかな散乱したバラバラな光子ですが、今回開発されたのはそんな光子をすべて集めて、向こう側に何があるのかを再構築できる、という非常に賢いアルゴリズムです。

こうした技術は今回が初めてではありません。散乱光トモグラフィのような光が散乱してしまう障壁を見通す方法はいくつか存在しています。

しかし、こうした方法では、対象との距離は予めわかっていなければならなかったり、弾道光子という散乱媒体の中を短距離だけ直進する光を利用しなければなりません

これらは主に医療現場などで使用され体の内部を見るなど、非常に限定的な短い距離に限られています。

今回のシステムは、そうした前提条件を必要とせず、単純に散乱した光を収集して再構築しているため、もっと大規模な場面で利用することが可能。例えば、豪雨や霧の中での安全な自動運転車のナビゲートや、雲越しに地表を撮影する人工衛星などに活かされるでしょう。

隠された物体の再構築

読み取った光の画像
読み取った光の画像/Credit:David B. Lindell et al.,Nature Communications(2020)

実験では厚さ1センチの発泡材の衝立越しに照射したレーザーから、その向こう側にある物体の画像を再構築しています。

発泡材に当たったレーザーはときどき、その向こう側へと通り抜け、物体に当たって再び発泡材を通り抜け戻ってきます。

このほんの一握りのわずかな光子を超高感度光子検出器で収集し、3次元で再構築を行うのです。

これにより、このシステムは衝立の向こうの物体を明らかにするだけでなく、3次元空間上のどの位置に存在するかまで明らかにできるのです。

散乱光を読取る実験の結果
散乱光を読取る実験の結果/Credit:David B. Lindell et al.,Nature Communications(2020)

実験では衝立の向こう側の物体をX線などを使わずに、散乱した光だけを手がかりに再現しています。

この研究は、光が少ない手がかりでどこまで再現可能か示す実験であり、新たな観測分野を切り開く技術でもあります。

研究の共著者であるスタンフォード大学のゴードン・ウェツシュタイン氏は、「これは工学的なハードウェアと物理学、そして応用数学の研究領域を組み合わせた高度な技術で、とてもエキサイティングだ」と語っています。

このアルゴリズムがあれば、いずれは氷や雲に閉ざされた惑星の地表の様子も、軌道上から観測する探査機の情報から明らかにできるかもしれません。

この研究はさまざまな可能性に満ちた技術開発の第一歩となるものです。

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