「不安定な岩」から地震のリスクがわかる? 地域の地震リスクを再評価する研究

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テキサス州のバランスロック。
テキサス州のバランスロック。/Credit:wildmoments

世界には、見るからに危険そうな状態でも不思議とバランスを保って長い年月維持されている岩石があります。

そんな不安定な岩の姿は世界の珍景として紹介されることがありますが、こうした岩が多くの人の命を救う研究に役立つかもしれません。

10月1日の科学誌「AGU Advances」に掲載された新しい研究では、絶妙なバランスを保つ奇岩を詳細に分析することで、その地域のはるか過去にさかのぼった地震の履歴や、地域の地震ハザード分析を見直すために利用できる可能性を報告しています

言われてみればという感じですが、研究ではこの方法によって既存の地震ハザードモデルの不確実性を大幅に削減できるといいます。

世界の危なそうな不安定岩石

イギリスのブリムハムロック。
イギリスのブリムハムロック。/Credit:en.Wikipedia

今にも崩れそうな不安定なバランスの岩石。こうした奇岩は世界のあちこちで確認されています。

地質学者が使う公式用語では、こうした不安定な岩はPBR(英: Precariously Balanced Rocks)と呼ばれたりします。

日本の長崎県にも「継石坊主(つぎいしぼうず)」というものがあります。

長崎県時津町にある落ちてきそうな奇岩「継石坊主」。
長崎県時津町にある落ちてきそうな奇岩「継石坊主」。/Credit:sabakusarakashiiwa.com

この岩は別名「鯖くさらかし岩」と呼ばれていて、街へ鯖を売りに行こうとした漁師がこの岩の下に差し掛かったとき「きっとすぐに落ちてくるに違いないから、落ちるまで待とう」と待っていたら商品の鯖が腐ってしまったという、「まんが日本昔ばなし」でも紹介された古い逸話があります。

PBRが形成される理由は、周りの柔らかい岩が侵食されて硬い岩の部分が残った場合や、後退する氷河が岩を不安定な位置に残していった場合などあります。いずれにしても危ういバランスでありながら、昔話になるくらい長期間、状態が維持されているのです。

また実際はもっと古く、何万年も維持されている可能性さえあります。

今回の研究チームが着目したのは、そのバランスがこの地域で起きる地震の揺れの上限を与えてくれるのではないか? ということだったのです。

不確実性の高い地震リスク

大きな地震は非常に稀な出来事であり、そのリスクを推定しようとした場合、非常に不確実性の高い難しい問題になります。これの推定の精度を高めるためには、非常に古い時代までさかのぼった地震の情報が必要です。

そんな古い時代の地震の情報を得るために、研究チームはPBRを2つの段階で調査しました

最初に行ったのは、宇宙線の暴露によって岩石内部で形成されたベリリウム原子の数を測定する「表面露出年代測定」です。これは岩の日焼け具合を見ているようなもので、「岩がどのくらいそこにあるのか」という期間を調べることができます。

そして、次に研究チームは岩の3Dモデリングシミュレーションを行い、転倒せずにこうした岩がどれだけの揺れに耐えることができるのかを計算しました。

3D モデルシミュレーションのためにマーカーを貼って岩をスキャンしている様子。
3D モデルシミュレーションのためにマーカーを貼って岩をスキャンしている様子。/Credit:Imperial College London,Caroline Brogan

こうした調査から明らかになったのは、PBRは以前考えられていた2倍近い長期間、その不思議な景観を維持できるということだったのです。

彼らの調査によると、古代の高マグニチュードの地震は、以前の推定より頻度が低く、1万年に1度と言われるような地震で引き起こされる揺れは、公式の推定より27%小さいと報告されています。

これは、現代の地震監視装置が機能する以前の知識のギャップを埋める助けとなり、地震リスクモデルを改善するための重要な情報の追加になります。

研究では、この方法によって最大100万年の地震活動について示すことができるとしています。

地震ハザードモデルの改善

PBRを調査する今回の研究者、インペリアル・カレッジ・ロンドンのアンナ・ルード氏。
PBRを調査する今回の研究者、インペリアル・カレッジ・ロンドンのアンナ・ルード氏。/Credit:Imperial College London,Caroline Brogan

地震のリスクを推定するハザードモデルは、断層の位置から時間経過に伴う地震活動まで、途方もない数のさまざまなデータや、観測地点の情報を使って構築されています。

しかし、それでも不確実性を拭うことはできません。今回の研究で調査されたPBRの情報は、そんなハザードモデルをより正確なものに微調整するために役立ちます。

研究ではこうしたデータを導入することで、地域の地震ハザード推定の不確実性が49%減少できたとしています。

地震の揺れを検出した地震計のデータは過去100年間ほどしか存在しないため、自然の中に残る情報から地震の履歴をたどる研究は非常に重要です。

ダムや原子力発電所などの、巨大地震にも耐える設計が求められる重要施設にとっても考慮されるべき情報を提供してくれるからです。

今回の研究には関与していませんが、米国地質調査所の地震学者のグレン・ビアシ氏も「この研究は、壊れやすい地質学的特徴を使って地震を調査する重要なケーススタディになるでしょう」と語っています。

ただ同氏は「表面露出年代測定」については、岩が不安定な形状になってからの年代であるかどうか確実なことが言えないため、これはまだ注意が必要な研究だということも指摘しています。

まだこの研究が確実な情報をもたらすものかはわかりませんが、たしかに不安定な岩が名所の地域は、地震のリスクが少なそうという気がします。

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