ガラスでは分子の再配置が絶えず起こっている。分子の“固体的な振動”と“液体的な流動”の中間的な状態が明らかに

分子シミュレーションによって模擬されたガラス(右)。白丸赤丸は分子を表し不規則に配置されている。
分子シミュレーションによって模擬されたガラス(右)。白丸赤丸は分子を表し不規則に配置されている。 / Credit:東京大学

ガラスは固体か? 液体か? 物理学にはこんな議論があります。

これは微視的なガラスの分子構造を見た場合にわかることで、物理学的にはガラスは固体とは言い切れない不思議な構造をしているのです。

そんな不思議なガラスの状態について、10月15日に米国物理学協会が発行する学術雑誌『The Journal of Chemical Physics』に掲載された研究では、シミュレーションによりガラスが固体と液体の中間状態であることを明らかにしたと報告しています。

この研究は東京大学、中国上海交通大学、フランスグルノーブル大学の国際研究チームから発表されていて、新たな発見によるとガラスの分子は絶えず再配置を行っているのだそうです。

本当は動いているガラス

ガラスは冷えて固まっているように見えて本当はゆっくり動いている。
ガラスは冷えて固まっているように見えて本当はゆっくり動いている。 / Credit:東映アニメーション,『おジャ魔女どれみドッカ〜ン!』

日常生活の中ではガラスはどう考えても固体としか感じられませんが、冷えて固まっているように見えてもガラスは人間にはわからないとてもゆっくりとした速度で液体のように動いています

その理由は、ガラスが結晶構造を持っていないからです。

物理学において通常固体と言った場合、それは規則的・周期的に分子が配置された結晶のことを指します

水が氷に変わるときも、ランダムで不規則に動いていた分子は結晶として固体化します。

しかし、ガラスの分子は規則的な結晶を作りません。固体のように感じられても、分子は不規則・ランダムに配置されているのです。

氷とガラスの分子構造の比較。
氷とガラスの分子構造の比較。 / Credit:ガラス産業連合会

そのため、固体と一口に言っても、そこには結晶とガラスという2種類の状態があるのです。

分子シミュレーションによるガラス分子の熱運動の解析

物質は膨大な数の分子から構成されていて、固体でもその中の分子たちは熱によって絶えず運動しています。

この分子の熱運動が固体の物性・性質を決めています。通常の結晶固体は、分子が1つの規則的な配置をして振動しています。熱が伝導したり、固体中を音波が伝わるのもこの振動によるものです。

しかし、ガラスには分子の振動だけでは説明できない物性があると昔から指摘されていました。

つまりガラスの不思議な構造を理解するためには、振動以外の分子の運動を解明する必要があったのです。

そこで今回の研究は分子シミュレーションを用いて、ガラス中の分子の熱運動の詳細を観察・解析しました。

ガラスの分子シミュレーション。左は今回明らかになったガラスにおける分子の再配置運動。
ガラスの分子シミュレーション。左は今回明らかになったガラスにおける分子の再配置運動。 / Credit:東京大学,Mizuno et,al.,The Journal of Chemical Physics(2020)

右の画像は分子シミュレーションによって模擬されたガラスで、白と赤のつぶつぶが分子を表しています。ガラスではこのように分子が不規則に配置されています。

左の画像が分子シミュレーションで明らかになったガラスの分子の運動の様子です。立方体の一辺は分子1つの63倍の長さがあり、赤い矢印は分子の位置の変化を100倍に引き伸ばして表示しています。

ここからわかったのは、ガラスでは分子が振動しているだけでなく、分子の再配置が常に起こっているということだったのです。

これはガラスが液体的な性質を持っていることを示しています。

ただ、ガラス中の分子は液体の流動のように、分子が遠くへ拡散していくことがありません。あくまで拘束された空間内で再配置を繰り返して運動しているのです。

つまり、ガラスは決まった配置で振動する固体ではなく、液体のような流動をするわけでもない、固体と液体の中間状態だということができるのです。

ガラスが固体か、液体かという議論は長く続いていましたが、その問いに対して中間状態という明確な答えを示したのが今回の研究の成果です。

ガラスのことをどう考えれば良いのか?

水が入った1杯のガラスのコップ
水が入った1杯のガラスのコップ / Credit:pixabay

再配置現象を固体の「安定性」という点で考えると、これは微視的な破壊現象と捉えることができると研究は述べています。

破壊は、ほんの僅かな熱を与えただけでも発生し、これはガラスがギリギリで安定性を保っている固体「限界安定な固体」ということができます

このギリギリな状態の秘密は、ガラスの形成過程にあると考えられます。

ガラスは水のようにある温度でパキッと結晶になるわけではありません。1300℃~1600℃の高温ではどろどろに溶けますが、500℃~700℃を下回ると、粘性が増していき、粒子が規則正しく並ばないまま固まっていきます。

それが分子の再配置を起こす、ギリギリの安定な固体のガラスを生み出していると考えられるのです。

今後、ガラスについてさらなる理解を深めるためには、そんなガラスの形成過程までさかのぼって研究を進めていく必要があるといいます。

日常的にガラスを利用する分には、別段影響のない話ですが、ガラスのコップの水を飲むとき何だか妙な気分になってしまいそうです。

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