GPSにも影響する「一般相対性理論」の”時空の歪み”。遠方の星でも確認される!

「4U 1916-053」星系のイメージ。円盤の中心は中性子星で、この近くのガスから放たれたX線は重力赤方偏移を起こしている。
「4U 1916-053」星系のイメージ。円盤の中心は中性子星で、この近くのガスから放たれたX線は重力赤方偏移を起こしている。 / Credit: NASA/CXC/M. Weiss

アインシュタインの一般相対性理論は難しくて、私たちの日常生活とは無関係と考えている人が多いでしょう。

しかし、私たちが毎日スマートフォンを通じて利用するGPS機能は、一般相対性理論の示す重力による時間のズレを考慮しなければ正常に動作しません。

そして8月11日に科学誌『The Astrophysical Journal Letters』に発表された研究では、このGPSでも重要な一般相対性理論の効果を2万9千光年離れた遠い二重連星系からも確認したという報告を行っています。

これまでは遠方の観測ではうまく捉えることのできなかった重力で時空が歪むという効果も、現代の精度の高い観測では確認できてしまうようです。

日常生活にも影響するアインシュタインの「一般相対性理論」

アイザック・ニュートンは、地球の引力の存在に気づき、その力を計算する「万有引力の法則」を発見しました。

しかし、質量の大きい物体が生み出す重力という力が一体何なのかは、ニュートンにも、その後の多くの学者たちにもわかりませんでした。

アインシュタイン一般相対性理論は、そんな謎の「重力」を、時空間の歪みとして説明することに成功したのです。

そして、この理論に従うと、重力の強い場所では時間の流れは遅くなるということになります(一般相対性理論がなんなのかよくわからん、という人はこちらの記事を参照してください)。

私たちは重力の影響で地球の上に立っていますが、軌道上の宇宙ステーションへ行くとほぼ無重力に近い環境に変わります。地球の重力は地表に近いほど強くて、地表から遠ざかるほど弱くなっていくのです。

時空の歪みである重力の影響が変わるということは、地球では地上と上空で、時間の流れる速さが変わってしまうことを意味します。

以前、東京大学の研究チームが100億年使っても1秒もズレが起きないという超高精度時計『光格子時計』を使って、スカイツリーの地上階と展望台の時間の流れを測定しました。すると10億分の4秒、展望台の方が速く時間が流れていると明らかになったのです。

厳密に測定すると、一般相対性理論の効果によってスカイツリーの展望台くらいの高さでも時間の流れのズレが測定できてしまうのです。

こうした重力の影響により時間の流れが遅くなる現象は「重力赤方偏移」と呼ばれています

「重力赤方偏移」は私たちの生活には直接影響はなさそうですが、実は日常的に利用しているGPSの位置情報の計算に影響しています。

地球を取り囲むGPS衛星。GPS衛星は常時4つが上空に確認できるように飛んでおり、位置情報はこの内3つの衛星の信号を使って計算される。
地球を取り囲むGPS衛星。GPS衛星は常時4つが上空に確認できるように飛んでおり、位置情報はこの内3つの衛星の信号を使って計算される。 / Credit:NOAA

GPSは地球を囲むように軌道上を回るGPS衛星の信号を元に、地球上での自分の位置を計算するシステムです。

軌道上のGPS衛星と地上の私たちでは、重力の影響でスカイツリー以上に時間の流れがズレています。そのため、位置情報の計算は一般相対性理論を元に時間のズレを補正しなければ正常に機能しません

一般相対性理論がないと、私たちはスマートフォンやカーナビで自分の位置を正確に知ることができなくなってしまうのです。

中性子星を中心にした二重連星系の不思議なX線

「重力赤方偏移」について、これまで科学者たちは太陽系内なら明確に確認してきました。

けれど遠く離れた宇宙から、その影響を観測することは困難でした。

NASAのチャンドラX線観測衛星は、そんな一般相対性理論の効果をはるか遠く、2万9千年離れた星系から捉えることに成功したのです。

4U 1916-053 2重連星系。
4U 1916-053 2重連星系。 / Credit:NASA/CXC/M.Weiss

それは「4U 1916-053」と呼ばれる中性子星を主星として、その周りを恒星が回る2重連星系です。

4U 1916-053の伴星は中性子星に外層を剥ぎ取られてしまい、太陽よりもはるかに高密度な星のコアだけになってしまっています。

そしてこの2つの星は、地球と月の距離とほぼ同等の34万6千キロメートルしか離れていません。

高密度の強い重力を持った2つの天体が地球と月ほどの距離で回りあっているので、その公転周期も凄まじく高速です。

月は地球の周りを一周するのに1カ月を費やしますが、この伴星が中性子星を一周する時間はわずか50分です。

そして研究チームは、チャンドラが観測したこの連星系のX線スペクトルから、ちょっと変わった特徴を検出したのです。それこそがGPSにも影響している効果、重力赤方偏移の証拠でした。

遠くの星系から検出された重力赤方偏移

重力の影響で時間が遅延するという事実は、X線を含むすべての種類の光(電磁波)にも影響を与えます。

光には単位時間あたりの振動回数で表される周波数というものを持っています。可視光では周波数が低いと波長が伸びて赤く見え、周波数が高い波長が縮んで青く見えます。

さまざまな振動数の光と色。
さまざまな振動数の光と色。 / Credit:Wikipedia

重力の強い場所で時間の進みが遅くなるということは、遠方からそれを観測した場合、単位時間当たりの振動回数が減って波長が伸びて見えることを意味しています。

これは私たちの目から見ると、重力の影響を受けなかった光より重力の影響を受けた光のほうが波長が赤い方(長波長)へズレでいるように見えるのです。このため重力赤方偏移というのです。

では、光の波長がズレているという事実をどうやって見つけ出すのでしょうか?

そこで役立つのが元素の吸収スペクトルです。

今回チャンドラの観測した4U 1916-053から検出されたX線には、明らかな鉄とシリコンの吸収スペクトルが確認されました。

鉄とシリコンの吸収スペクトル。赤線がコンピューターの計算によるもの。灰色は観測されたX線の特徴。
鉄とシリコンの吸収スペクトル。赤線がコンピューターの計算によるもの。灰色は観測されたX線の特徴。 / Credit: NASA/CXC/University of Michigan/N. Trueba et al.

この画像の灰の線がチャンドラの観測したX線スペクトルの特徴です。赤い線はコンピューターで計算された鉄とシリコンの吸収スペクトルの特徴です。

2つを重ね合わせると、それぞれきれいに一致するのがわかります。

これは中性子星を取り巻くガスの成分によって、X線の特定の波長が吸収されたためだと考えられます。ガスの中に鉄やシリコンが含まれているのでしょう。

しかし、この観測された吸収スペクトルは、地球上で見られるスペクトルよりも波長が赤い方(長波長)へズレていました。つまり赤方偏移を起こしていたのです。

赤方偏移は天体が地球から遠ざかっている場合にも確認されます。これはドップラー効果によるものですが、今回確認されたスペクトルのズレは天体の移動では説明できない大きさでした。

つまり、中性子星の強い重力の影響によってX線が重力赤方偏移を起こした証拠だと言えるのです。

あちこちから見つかる重力による時空の歪み

研究チームが今回の重力赤方偏移の影響と、予想される中性子星の質量を元に計算したところ、このX線が通ったガスは中性子星から約2400キロメートルの距離にあるとわかりました。

これは北海道から沖縄くらいの距離です。

こうした中性子星の近くでは、はっきりと一般相対性理論が唱える重力赤方偏移が観測で確認できたのです。

機器性能の向上で、机上の中だけにあった一般相対性理論の効果は、現在私たちの日常必需品の中から、遠い宇宙のX線の中までさまざまなところで現実に確認できるようになりました。

重力のせいで、宇宙のあちこちで時間の流れが遅れているというのは、なんだかすごい話ですね。

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