ノミを含む吸血昆虫は「花の蜜を吸う祖先」から進化した⁈
ノミは、動物界におけるあらゆる寄生虫の中で傑出した位置を占めています。
ノミが媒介する細菌によって引き起こされたペスト(黒死病)は、人類が知りうる限り最も致死的な疫病でした。
14世紀には、約2億人の命を奪ったと言われます。
ノミは医学的に見逃してはならない存在であるにもかかわらず、系統樹における正確な位置は謎のままでした。
その理由について、研究主任のエリック・ティヘルカ氏は「ノミの遺伝子が急速に進化したことで、大昔の進化関係の再構築が困難になっていたから」と話します。

研究チームは今回、タンパク質をコードするノミの遺伝子1,400以上(入手しうる最大のデータセット)をもとに、最新の統計手法をつかって、系統樹における位置関係を調べました。
その際、過去に提唱されたノミの進化に関する仮説もすべて検証しています。
その結果、ノミは世界に600種ほど存在する「シリアゲムシ目」に属し、それらが約2億9000万〜1億6500万年前の間に、脊椎動物の血液を吸血し始めたときに誕生したことが判明しました。

それから、ノミと最も近い近縁種は、シリアゲムシ目の「Nannochoristidae科」であることも特定されています。
Nannochoristidae科はニュージーランド、オーストラリアを含む南半球の数カ所で、わずか7種しか確認されていません。
この科の昆虫たちは、血に飢えたノミとは違い、花の蜜を吸って平和に暮らしています。
シリアゲムシ目との近縁性はこれまでに示唆されたことがありますが、遺伝子的に断定できたのは初めてです。

ティヘルカ氏は「今回の結果は、ノミに関する過去の学説を大きく覆すもの」と述べています。
従来の学説によると、「ノミを含む吸血性の寄生虫は、祖先の昆虫が宿主となる脊椎動物に住み着くことで派生した」と考えられました。
しかし実際は、花の蜜や植物の分泌液を吸うグループに起源をもっていたのです。
同チームのマティア・ジャコメッリ氏は「花の蜜を吸うためにあった祖先の細長い口吻が、進化の中で動物の血液を吸うための道具にうまくシフトできたのでしょう」と説明します。
今後は、ノミの祖先はなぜ花の蜜から動物の血液へと食料源を変えたのかが争点となりそうです。