NaCl結晶核が形成される様子を捉えた原子分解能電子顕微鏡動画(40ミリ秒/フレーム)。
NaCl結晶核が形成される様子を捉えた原子分解能電子顕微鏡動画(40ミリ秒/フレーム)。 / Credit:東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室,中村 栄一 et al.,American Chemical Society(2020)
chemistry

液体から「食塩の結晶ができる瞬間」を撮影成功!ミクロな視点から結晶化の過程を観察できるようになった

2021.01.27 Wednesday

2021.01.26 Tuesday

物質には固体、液体、気体という3つの状態があり、温度などの変化に合わせて移行していきます。

水が凍りついたり、海水から塩が析出する現象は私たちの身近で起きるありふれた現象です。

しかし、このとき原子レベルでは具体的に何が起こっているのでしょうか?

1月21日に科学雑誌『Journal of the American Chemical Society』で発表された新しい研究は、無秩序な液体からナノサイズの食塩結晶ができ、成長する様子をスローモーション撮影することに成功したと報告しています。

ありふれた現象である結晶化。しかし、そのメカニズムは十分に理解されてはいません。結晶化の全過程を撮影した今回の研究は、さまざまな分野で革新をもたらすことになるかもしれません。

 

Capturing the Moment of Emergence of Crystal Nucleus from Disorder https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.0c12100

結晶ができる瞬間はどうなっているのか?

人類は紀元前の昔から製塩などで、結晶化を技術として利用してきました。

現代では、製薬や材料の分野でも結晶化技術は活躍しています。

しかし、結晶化のメカニズムは必ずしも十分理解されているとは言えませんでした。なぜなら、分子が無秩序な液体から秩序を持った結晶へと変化するその過程を、人間は直接見られなかったからです。

現代はさまざまな技術の発展により、原子レベルの小さな世界を観察することができるようになっています。結晶中の原子配列など静的な構造も明らかにされてきました。

けれど、結晶化という動的な過程の一部始終を原子レベルで観察することは、まだ達成されていなかったのです。

それを今回、東京大学の中村栄一特別教授と、産業技術総合研究所の灘浩樹氏による共同研究グループは、「原子分解能単分子実時間電子顕微鏡(SMART-EM)イメージング法」という技術を開発し、スローモーション撮影することに成功しました。

研究では、塩化ナトリウム(NaCl)水溶液を、円錐状のカーボンナノチューブ(CNT)の中に入れ、それを乾燥させていくことで内部の塩が真空中で結晶化していく様子を撮影しました。

今回の研究はナノフラスコというものを利用することで原子レベルの観察を成功させた。
今回の研究はナノフラスコというものを利用することで原子レベルの観察を成功させた。 / Credit:東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室,中村 栄一 et al.,American Chemical Society(2020)

円錐という先の尖った形状は、先端部分でNaCl分子の集合・核形成を誘起させ、分子拡散をうまく抑制してくれます。

これにより、撮影された動画はカーボンナノチューブの先端で1ナノメートル(10億分の1メート)の塩の結晶が繰り返し形成される様子を捉えたのです。

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