カーボンナノチューブのより糸に、電解質がコーティングされた人工筋肉の走査型電子顕微鏡画像。
カーボンナノチューブのより糸に、電解質がコーティングされた人工筋肉の走査型電子顕微鏡画像。 / Credit:The University of Texas at Dallas
chemistry

強力な「カーボンナノチューブの人工筋肉」が開発される

2021.02.03 Wednesday

人工筋肉と言うと肉でできた生体部品というイメージが湧きますが、実際に現在研究されている人工筋肉はカーボンナノチューブ(以下、CNT)の糸で作られています。

1月29日に科学雑誌『Science』で発表された新しい研究は、このCNTの人工筋肉に革新的な技術を見出し、同じ重量の人間の筋肉の実に29倍の能力を得ることに成功したと報告しています。

CNT繊維による人工筋肉は、さまざまな制約がありましたが、研究はそうした問題の多くを解決させるものになるようです。

The University of Texas at Dallas https://www.utdallas.edu/news/science-technology/unipolar-carbon-nanotube-muscles-2021/
Unipolar stroke, electroosmotic pump carbon nanotube yarn muscles https://science.sciencemag.org/content/371/6528/494

より合わせた糸で筋肉を再現する

ゴム動力の飛行機。
ゴム動力の飛行機。 / Credit:JUT Dallas Nanotech Breakthrough

ゴム動力の飛行機を思い浮かべるとわかりやすいですが、より合わせた糸はらせん状にねじっていくと、収縮していきます。

こうした原理を使い、髪の毛よりずっと細いカーボンナノチューブをより合わせた糸(CNTヤーン)で筋肉を再現したものが、CNT筋肉です。

この人工筋肉では、熱を利用して駆動させる方法もありますが制約が多く、現在は電気化学的に駆動させる方法が研究されています。

電気が流れると繊維が回転する人工筋肉のカタパルト。
電気が流れると繊維が回転する人工筋肉のカタパルト。 / Credit:Nature Newsteam

電気化学的に駆動される筋肉は、エネルギー変換効率が熱力学によって制限されず、重い負荷を支えながら大きな収縮が維持できるので有望な方法とされています。

この方法では、CNTが電荷を取り込むことで収縮や伸長といった動作をおこないます。

電荷を取り込んで回転し収縮していく。
電荷を取り込んで回転し収縮していく。 / Credit:BionicMuscles

ただ、この方法で動作する人工筋肉には動作に限界があります。

電荷を取り込む方向によって、収縮と伸長の動作が変わるため、基本的に電位はゼロに保たなければなりません。

また、電解質はある範囲の電圧でのみ安定し、この範囲を超えると分解されてしまいます。

そのため、動作に制限がでてしまうのです。

さらに、CNTの動作に必要な電荷を蓄積する能力(静電容量)は、電荷を取り込む速度が上がると大幅に減少してしまうという問題もありました。

つまり、筋肉の動作の応答速度を上げると、出せるパワーが下がってしまうという問題があったのです。

しかし、新たな研究はこの問題を解決させる方法を開発しました。

それが、コイル状のCNTを帯電したイオン性ポリマーでコーティングするというものです。

カーボンナノチューブのより糸に、電解質がコーティングされた人工筋肉の走査型電子顕微鏡画像。
カーボンナノチューブのより糸に、電解質がコーティングされた人工筋肉の走査型電子顕微鏡画像。 / Credit:The University of Texas at Dallas

この処理により、CNTの筋肉は、単極で動作するようになり、電解質の安定範囲全体にわたって一方向に動かすことができるようになったのです。

さらに電荷の取り込み速度と、筋肉の出力の向上も同時に達成することができました。

これにより、同じ重量の人間の筋肉が持つ最大能力の29倍の力を、CNT筋肉は出すことができるのだといいます。

また、これまでの電気化学的な人工筋肉では、電解質に浸して使う必要がありましたが、研究チームは二重電極の固体電解質でコーティングすることで、2つのコイル状のカーボンナノチューブが、1つは負に、もう一つは正に帯電することで液体電解質に浸す必要がなくなったとのこと。

さまざまな画期的な改善ができ、CNTを使った人工筋肉実現の可能性が一気に高まったようです。

この技術は、ロボット工学や、心臓ポンプ、また衣類への利用など、さまざまな場面のニーズに応えられるものになるかもしれません。

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