母親の背中は「天国」か「地獄」か?
サソリはパートナーと交尾をするとき、互いのハサミをつかみ、押し相撲をしながらクルクル回転する儀式めいた行動をとります。
これは「婚姻ダンス」と呼ばれ、メスはオスの力強さをテストし、オスは自分が丈夫であることを示しつつ、メスを交尾に適した場所に誘導する儀式です。
婚姻ダンスは長ければ数時間続くことがあり、もし相性が悪いと判断されれば、どちらかが一方を殺してしまいます。
大抵はメスがオスを一方的に食べてしまうそうです。
しかし、オスがメスのテストに合格すれば、すぐさま交尾をして、その後は互いに別々の道を歩みます。
ただし、メスがオスを食べない限りは。
専門家によると、交尾成立後にメスがオスを食べるのは飼育下がほとんどで、これはオスの逃げ場がないからとされます。
実際、野生下での共食いはあまり見られません。
オスはことが済んだら、すぐその場を後にし、子育てはすべてメスに託します。
サソリの恋は、すべて行きずりなのですね。
ちなみに、サソリの中には、交尾をせずに単為生殖で子孫を残せる種もいますが、これは遺伝的なバリエーションが増えないため、種の存続にはあまり得策と言えません。
また、母サソリが、子どもを産むまでには長くて18ヶ月ほどかかります。
これはサソリの子が、卵ではなく生きた状態で生まれるため、比較的長い妊娠期間を要するからです。
苦労の末に生まれた子どもたちは、外骨格が柔らかく皮膚もぷにぷにの状態なので、一人歩きをすれば簡単に捕食されてしまいます。
そこで、保身のために母親の背中に登り、最初の脱皮と外骨格が固まるまでそこに滞在します。
その期間は、短くて1週間、長くて2週間ほどです。
しかし、母親の背中も安全とは言いきれません。
なぜなら、母サソリはお腹が空くと、スナック感覚で背中の子どもを食べてしまうからです。
これを生き延びることができたサソリだけが、自然界に独り立ちできます。
母親の背中は、子どもにとって天国とも地獄ともなりうるのです。