宇宙で新鮮な魚が食べられる?
月面開発は現在、NASA(アメリカ航空宇宙局)およびESA(欧州宇宙機関)を中心にして、積極的に進められています。
NASAは2024年までに、月面への有人飛行を計画していますし、ESAは2030年を目処に「月の村(Moon Village)」の建設を開始する予定です。
この計画には、現地での食料生産が不可欠な要素として含まれています。
月の村ができれば、宇宙飛行士は長期滞在するようになり、従来のドライフードでは、健康面でも食欲の面でも長持ちしないでしょう。
そこで専門家らは、月面での養殖に目をつけました。
魚には、必須アミノ酸やオメガ3脂肪酸、ビタミンB12など栄養豊富であり、養殖であれば常に鮮度の高い状態で提供可能です。
さらに、生きている動物が身近にいることは、長期滞在を余儀なくさせる宇宙飛行士のメンタルヘルス面にもプラスに働きます。

一方、第一号の養殖魚として、地球から生きた魚を送り届けるのは不可能です。
ロケットの打ち上げにかかる振動や重力は、生物にとって異常な状況であり、生身の魚にはとても耐えられません。
その解決策として、フランス海洋開発研究所のCyrille Przybyla氏は、生きた魚でなく、魚卵を送るアイデアを提案しました。
卵は、海の荒波や岩への衝突にも耐えられる強さがあるからです。
そこでPrzybyla氏と研究チームは、月面への打ち上げに適したいくつかの要素(適度な酸素消費量、二酸化炭素の排出量の低さ、孵化期間の短さ)にもとづいて、あらゆる魚種の中からヨーロピアンシーバスとコルビナを選び、耐性テストを行いました。


それぞれの魚卵サンプルを「実験群」と「対照群」に分け、実験群にのみ、ロシアのソユーズ宇宙船の打ち上げを再現した振動を与え、孵化率の違いを比較しています。
その結果、ヨーロピアンシーバスの孵化率は、実験群76%、対照群82%、コルビナでは、実験群95%、対照群92%となりました。
ヨーロピアンシーバスではやや孵化率が落ちましたが、ともに打ち上げを耐え抜くには十分な強度に達しています。
(研究は、昨年9月23日に『Aquaculture International』にて発表されています)
Przybyla氏は「生物にとって過酷な環境下であるにもかかわらず、この孵化率の高さは驚くべきもの」と評しています。

この結果を受け、フランス海洋開発研究所は年内中に、カリフォルニア海事大学と共同で、2種の魚卵を乗せた小型衛星をISS(国際宇宙ステーション)から直接打ち上げる計画を進めています。
また、養殖場の設営地には、付近に利用可能な水資源があることも重要です。
NASAは昨年10月の月面探査にて、太陽光が当たり、アクセスも容易な場所に水の存在を確認しており、候補地の一つにあげられています。
その内、月面にシーフードレストランができたりするかもしれませんね。