花のかたちが「フード」そっくり
フェアリーランタン(Thismia属)は1845年に初めて見つかった植物で、主に東南アジアとオーストラリアに自生しています。
マレーシア森林研究所 (FRIM)の植物学者Mat Yunoh Siti-Munirah氏は、2017年に、同国のロイヤルベラム州立公園がSNS上でシェアした画像に奇妙な植物を発見。
それを見た氏は「フェアリーランタンの新種ではないか」と考え、研究チームとともに現地調査をおこないました。
氏は「フェアリーランタンの多くは1年の内の特定の時期にしか発見できません。なので、見つけるには正確なタイミングと場所に恵まれなければならない」と話します。
しかし、運はチームの味方をしました。
公園内の熱帯雨林の木の下に、高さ数センチほどの白い小さなフェアリーランタンが発見されたのです。
調査の結果、予想どおりにThismia属の新種と判明し、新たに「Thismia belumensis」と命名されました。
Thismia属は通常、シンメトリカルな花をもち、しばしば奇妙なアンテナ状の突起が見られます。
しかし、T. belumensisは花が輪っか状に広がって、ぱっくりと口を開ける「フード」のようになっていました。
モスクワ大学の植物学者マキシム・ヌラリエフ氏は「Thismia属の中では非常に珍しい花の形であり、他に1種しか知られていません。その種も1927年以来、人の目には見つかっていないものです」と話します。
また、チェコのパラツキー大学オロモウツ校のマーティン・ダンチャク氏は「フードの形が受粉に関係している」と推測します。
フードの内表面は、内向きに生えた細かな毛に覆われており、昆虫をフードの中に入りやすくします。
それによって花粉を運んでもらっているようですが、他方で、毛が内向きに生えているので、後退して外に出るのは難しくなるとのこと。
「これは一部の食虫植物に見られる昆虫のトラッピングに似た構造である」とダンチャク氏は説明します。
しかし、T. belumensisは肉食性ではなく、フードの下側にはちゃんと昆虫が抜け出られるような穴が2つ確認されています。
また、Thismia属は光合成に必要な葉緑素が欠如しており、代わりに菌類から栄養素を盗むのですが、新種にも同じ機能があると見られます。
新種はすでに減少の危機にあると思われ、研究チームは今後、生態を詳しく調査して保護を進める予定です。