伝説的な布「ダッカ・モスリン」とは?

「モスリン」とは綿を平織り(経糸と緯糸を交互に織る方法)にした薄地の織物の総称です。
18世紀のヨーロッパでは大流行しており、モスリンのドレス、ペチコート、カーチーフなどが好まれていました。
そして当時、モスリンの最高級品として知られていたのが、「ダッカ」で織られた「ダッカ・モスリン」です。
この「ダッカ」とは、現在のバングラデシュの首都名ですが、当時のベンガル地方(バングラデシュとインドの西ベンガル州が含まれる)にも同名の都市があったと言われています。
ダッカ・モスリンは今のモスリンとは全く異なります。聖地メグナ川でしか育たない希少な綿花を使い、16の工程を経て、職人の手織りによって成り立っていました。

また、この伝説の布は透けるほど薄く、風のように軽くて柔らかいと言われています。
その薄さは、ある旅人が「18mのダッカ・モスリンがポケットサイズの嗅ぎタバコケースに入る」と述べたほどです。
実際に18世紀末のヨーロッパでは、裸を露わにするダッカ・モスリンのドレスが国際的なスキャンダルを引き起こしたとのこと。この様子は風刺画にもたびたび登場しました。
このようにダッカ・モスリンは世界中の人々の関心を集めるだけでなく、熱狂的なファンを生み出しました。
それにもかかわらず、20世紀初頭には世界各地から姿を消しています。
現存しているのは、博物館や一部の個人に保管されているものだけであり、新たに作られることもありません。