ネコを放って被食者の「生き残る力」を向上させ、適応させる
現在、生態系再生プロジェクト「Arid Recovery」によって、オーストラリアの122平方キロメートルの土地が高さ1.8メートルのフェンスで囲まれており、ネコやキツネが入ってこれないようになっています。
この保護区域には2種類の在来種、ミミナガバンディクート(学名:Macrotis lagotis)とシロオビネズミカンガルー(学名:Bettongia lesueur)が生息。
モズビー氏はここ数年、この2種を実験対象とし、保護区域にあえてネコを放つことで圧力を増加させました。
捕食者から逃げなければ生き残れない環境にあえてすることで、動物たちを捕食者のいる環境に適応させようとしたのです。
ちなみに、放たれるネコの数は制限されており、圧力をかけつつも絶滅しないようになっています。
そして次に、過酷な環境で2年間生き残ったミミナガバンディクートのグループと、捕食者のいない保護区域で育ったナイーブなミミナガバンディクートのグループを、ネコの数が多い区域に放つことにしました。
40日後、後者のナイーブなミミナガバンディクートは4分の1しか生き残れませんでした。
しかし、前者の「捕食者にさらされてきた」ミミナガバンディクートは3分の2も生き残っていたとのこと。
ネコと共存してきたミミナガバンディクートは高いサバイバル能力を持っていたのです。
また同様に、18ヵ月間ネコにさらされたシロオビネズミカンガルーも、捕食者に対する警戒心が強くなっていました。
今回の実験では、捕食者にある程度さらされた被食者がサバイバル能力を向上させるというメカニズムが確認されました。
では、このメカニズムを実際に絶滅危惧種の保護に役立てるには、どれくらいの期間が必要なのでしょうか?
モズビー氏は次のように述べています。
「人は私に、『これは100年かかるかもしれない』と言います。確かに、そうかもしれません。だからといって、やる価値がないわけではありません」
彼女が目指しているように、絶滅危惧種を本当の意味で助けるのは、長期間かかっても厳しい環境に適応できるようサポートすることなのかもしれませんね。