新たな外骨格、歩行するエネルギーで歩行のサポートと小型電気機器の充電が同時に行える
新たな外骨格、歩行するエネルギーで歩行のサポートと小型電気機器の充電が同時に行える / Credit:QueensUCanada
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「歩行エネルギー」を削減しつつスマホの充電もできる外骨格が登場

2021.05.31 Monday

私たちが自転車を漕いだり、歩いたりするエネルギーを利用して、スマホなどの充電を行うウェアラブルデバイスがいろいろ研究されています。

しかし、これまでの技術は電力を取り出す代わりに私たちの歩行に、余計な負荷をかけていました。

クイーンズ大学工学部の研究チームが開発した外骨格は、歩行で電力を発生させますが、発生した電力の一部を歩行終了時の動作サポートに利用することで、歩行負荷を軽減させながら、小型電気機器の充電も可能にしています

なんとも都合がいい画期的なデバイス。

この研究の詳細は、科学雑誌『Science』に5月28日付で掲載されています。

Unique technology gives humans a leg up on walking(Queen’s University) https://engineering.queensu.ca/news/2021/05/unique-technology-gives-humans-a-leg-up-on-walking.html
Removing energy with an exoskeleton reduces the metabolic cost of walking https://science.sciencemag.org/content/372/6545/957

発電しながら歩行もサポートする外骨格

スマホなどの便利な小型機器が登場したことで、私たちの日常生活は、常に機械にサポートされる状況になってきました。

これから先の未来では、さらにこうした小型機器は発展し、日常的に身に着けながら私たちの生活をサポートしたり、健康状態を監視するなど、さまざまなデバイスが登場すると考えられます。

そうなったとき面倒なのがバッテリー切れという問題です。

日常的に身に着けて使うような小型機器は、できれば私たちが意識せずに勝手に充電できるようになることが理想です。

そのための方法はいろいろと研究されていて、特に注目を集めているのは私たちの日常動作から電力を獲得するというものです。

歩行は、私たちにとってもっとも当たり前の日常動作です。ここから電力を得るデバイスも開発されていますが、ここで問題となるのは歩行動作に余計な負荷がかかるようになるということです。

歩行動作からエネルギーを取り出すということは、走行中の車にブレーキをかけるようなものです。

これは長距離を歩く人などには特に大きな問題となります。

そこで、クイーンズ大学工学部の研究チームが開発しているのが、発電した電力の一部を利用して、歩行動作の一部をサポートするという外骨格です。

バックパックに組み込まれた発電機。これは小型デバイスへの充電と同時に歩行をサポートする外骨格でもある。
バックパックに組み込まれた発電機。これは小型デバイスへの充電と同時に歩行をサポートする外骨格でもある。 / Credit:QueensUCanada

このデバイスは、重さがわずか0.5kgでリュックサックなどに簡単に収まるサイズの外骨格です。

ここからは2本のワイヤーが伸びていて、足首に巻きつけられています。

歩行時に脚が前方に振られると、このワイヤーが引っ張られて発電機を回転させて発電を行います。

このとき歩行にはわずかな負荷が発生します。

足首につながる2本のワイヤーが歩行動作から発電を行う
足首につながる2本のワイヤーが歩行動作から発電を行う / Credit:QueensUCanada

ここまでは通常の方向を利用した発電機と同様です。

しかし、この外骨格は発電された電力の一部を使って、歩行終了時の制動に使われる膝の筋力を不要にするようサポートするのです。

残った電力はスマホなどの充電に利用できます。

歩行による発電電力はスマホの充電などに利用できる
歩行による発電電力はスマホの充電などに利用できる / Credit:QueensUCanada

しかし、歩行の動作で発電して、スマホの充電までしているのに、歩行動作をサポートして負荷を軽減するなんてことが可能なのでしょうか?

私たちはほぼ無意識に実行している歩行という動作ですが、実際その内容は非常に繊細で高度に最適化されています。

歩行効率を外骨格を利用して向上させることは非常に困難な試みです。

けれど、今回の研究チームは歩行のバイオメカニクス、生理学、人間と機械の相互作用などを研究し、世界最高レベルの歩行分析技術を持っています

彼らが着目したのは、歩行周期のどの段階をサポートするかということでした。

人の行う歩行には、一定の周期が存在しています。

この歩行の段階を、分類したうち、歩行動作の終端にあたるターミナルスイング(terminal swing)という段階の膝の筋肉に使われるエネルギーを、今回のデバイスは肩代わりするのです。

人間の歩行周期。デバイスがサポートするのは最後のターミナルスイング。
人間の歩行周期。デバイスがサポートするのは最後のターミナルスイング。 / Credit:歩行分析が苦手な人のための歩行分析

チームの報告によると、この方法によって利用者の歩行に必要なエネルギーは約3.3%軽減させることができ、さらに約0.25ワットの発電を行うことに成功したといいます。

まだプロトタイプなので、多少不格好にも見えますが、利用者はあるき始めてから2~3分でかなり自然に歩けるようになったとのこと。

デバイスを使った実験の様子
デバイスを使った実験の様子 / Credit:QueensUCanada

現在の実験では、平地での歩行を対象としていますが、チームは今後、坂道の上り下りなど、さまざまな局面でも歩行効率が上がることを実証していく予定です。

これは山歩きなど、遠隔地を徒歩で移動する人たちに、特に役立つ可能性が高いと考えられます。

また、郵便配達員や看護師など、一日中歩き回る仕事に従事する人の負担を軽減したり、マラソンなどの走行競技でも負担を軽減させることでタイムを縮めることもできるだろうと研究者は話します。

発電しながら負荷を減らすとは、まるで無限機関のようなすごい発明ですね。

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