酸素のない時代に「海綿動物」はすでにいた⁈
この化石は、1990年代初頭に、カナダ・ローレンティアン大学(Laurentian University)の古生物学者エリザベス・ターナー氏によって発見されたものです。
ターナー氏は「古代のシアノバクテリアが築いた巨大な微生物礁の化石サンプルを調べているときに、この奇妙な化石に気づいた」と言います。
しかし、ターナー氏は当時、別の研究で手が離せなかったため、化石の詳しい調査は現在まで放置されたという。
30年近くの時を経て、化石の薄片を顕微鏡で観察したところ、シアノバクテリアよりずっと複雑なネットワーク構造が見つかりました。
細かく枝分かれした構造は、太さ20~30マイクロメートルほどで、肉眼では見えません。
ネットワーク構造は3次元的に枝分かれしたり、再び結合したりしており、これは菌類には見られない特徴で、むしろ海綿動物の繊維に一致していました。
ターナー氏は「現代の海綿の繊維状骨格を形成するスポンジン(コラーゲンの1種のタンパク質)と酷似している」と指摘します。
その一方で、化石の年代に当たる8億9000万年前は、まだ複雑な生命体を維持するのに十分な酸素がなかった時代です。
私たち動物にとって、酸素が不可欠であることはよく知られています。
いったん酸素を吸い込むと、呼吸器系がその貴重な分子を体の隅々まで送り届け、細胞がその酸素を使ってエネルギーを作ります。
地球で酸素化イベントが起こったのは、8億〜5億4000万年前の新原生代(Neoproterozoic)と考えられています。
つまり、化石中の海綿が存在したのは、それより少なくとも9000万年前になるのです。
しかし、酸素がない、あるいは少ない状態で、海綿動物が存在できたのかどうかは分かりません。
一般的な見解では、そのような環境では、酸素を産生する微生物がいる岩礁付近をのぞいて、海綿をふくむ後生動物は生きられなかったと考えられています。
ただし、シアノバクテリアの微生物礁が大量の酸素を産生できたことを踏まえると、そこに海綿が存在できた可能性も十分にあります。
あるいは、生物学の常識に反し、古代の海綿は酸素のない状態でも生き延びられたのかもしれません。