BC(バクテリアセルロース)スフェロイドを使用して構築された2つの3D形状の成長例
BC(バクテリアセルロース)スフェロイドを使用して構築された2つの3D形状の成長例 / Credit:Tom Ellis et al.,Nature Communications(2021)
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自己修復できる「生きた材料」が開発される

2021.08.24 Tuesday

現在使われている材料は、ひび割れたりしても勝手に修復されることはありません。

一方私たちの体は、傷が付けば自然と治癒して元に戻ります。

もし、生きた材料を生み出せればメンテナンスの手間が減り、建築物の寿命を延ばせるかもしれません。

英国インペリアル・カレッジ・ロンドン( Imperial College London, ICL)の研究チームは、そんなバクテリアをベースとした人工生物材料(ELM)を開発したと発表。

この材料はダメージを受けても自分で回復する能力を持っているといいます。

研究の詳細は、科学雑誌『Nature Communications』に8月19日付で発表されています。

Self-healing ‘living materials’ used as 3D building blocks https://www.imperial.ac.uk/news/228633/self-healing-living-materials-used-3d-building/
Bacterial cellulose spheroids as building blocks for 3D and patterned living materials and for regeneration https://www.nature.com/articles/s41467-021-25350-8

自己治癒できる生きた材料

今回研究されているのは人工生体材料(engineered living materials, ELM)と呼ばれる、生物の治癒能力を利用した物質です。

こうした材料が実現されれば、フロントガラスのひび割れ、航空機の胴体の裂け目、道路の凹みなどのダメージを自ら検知して修復するような、メンテンナンスの必要性が少なく、過酷な環境でも長い寿命を保てる建材を生み出すことができます。

研究チームの1人、インペリアル・カレッジ・ロンドンのバイオエンジニアリング学部のトム・エリス教授は次のように述べています。

「これまで私たちは、環境の変化を検知するセンサーを内蔵した生体材料を開発してきました。

今回は、ダメージを検知し、それに対応して自己治癒することができる生体材料を開発しました

建築物が様々な構造を組み立てるためのモジュール(部品やユニット)から構築されているように、今回の研究は、同じ原理でバクテリアセルロース(BC)をベースとした材料に、モジュールとしての設計を適用しました。

バクテリアセルロースの発生段階を示す図。設定されたパターンに配列されてスウェロイドがELMを構築しているのが分かる
バクテリアセルロースの発生段階を示す図。設定されたパターンに配列されてスウェロイドがELMを構築しているのが分かる / Credit:Tom Ellis et al.,Nature Communications(2021)

研究チームは、「コマガタエイバクター・レティクス(Komagataeibacter rhaeticus)」というバクテリアを遺伝子操作して、「スフェロイド(spheroids)」と呼ばれる蛍光性の3次元球状の細胞培養物を作りました。

そして、そこに損傷を検知するセンサーを持たせたのです。

スフェロイドはさまざまな形やパターンに配列することが可能で、建材を構築する部品(モジュール)として機能させることができます。

バクテリアセルロース(BC)とは、バクテリアが作る足場のような材料です。

研究チームが、このバクテリアセルロースに穴あけ器で損傷を与え、そこに成長したスフェロイドを挿入し、3日間培養すると、元の外観に復元され構造的にも安定することが示されました

左が穴を開けた状態。右が培養後の状態。穴が修復されているのがわかる。
左が穴を開けた状態。右が培養後の状態。穴が修復されているのがわかる。 / Credit:Tom Ellis et al.,Nature Communications(2021)

スフェロイドというモジュール単位で機能する細胞を利用することで、損傷したバクテリアセルロースの外観を保ったまま、構造を修復できたのです。

これは、まさに目指していた自己修復機能を持つ生体材料です。

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