短期記憶を長期記憶にするには「習慣の壁」を超える必要があると判明
短期記憶を長期記憶にするには「習慣の壁」を超える必要があると判明 / Credit:Canva . ナゾロジー編集部
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学習内容を定着させるには「古い習慣」を超える必要があった

2021.08.27 Friday

短期記憶を長期記憶にする新たな仕組みが示されました。

8月15日にアメリカのマウントサイナイ医学大学の研究者たちにより『Nature Communication』に掲載された論文によれば、新しい学習内容が脳に定着するには、古い習慣にかかわる脳領域(背外側線条体)に存在する、古い習慣を担う回路を打ち倒す必要があるとのこと。

習慣にかかわる脳領域(背外側線条体)には、古い習慣的な行いを担う回路だけでなく、新規学習によって活性化する回路も存在しており、この2回路間の活性バランスを新しい学習側に傾けることで、新しい記憶が脳に定着するようです。

しかし、いったいどうすれば新規学習側の回路を活性化できるのでしょうか?

Old Habit-Controlling Neurons May Also Help the Brain Learn New Tricks https://neurosciencenews.com/habit-learning-neurons-19201/
Opposing roles for striatonigral and striatopallidal neurons in dorsolateral striatum in consolidating new instrumental actions https://www.nature.com/articles/s41467-021-25460-3

ラットやマウスも学習中ではなく学習後に長期記憶が形成される

ラットやマウスも学習中ではなく学習後に長期記憶が形成される
ラットやマウスも学習中ではなく学習後に長期記憶が形成される / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

近年の科学の進歩により、人間を含む動物の様々な行いや感情に対応する神経回路が明らかになってきました。

快楽を担当する回路を刺激すれば、動物は気持ちよくなり、恐怖を担当する回路を破壊すれば、恐れを感じなくなります。

また集中力を担当する回路を強化すれば、記憶力が増大し、問題解決力が向上します。

しかし道具を用いる複雑な課題に対する新たな記憶が、どのようにして脳に定着していくかは詳しくわかっていません。

そこで今回、アメリカのマウントサイナイ医学大学の研究者たちは、ラットとマウスにレバーを引くとエサがもらえるという条件を学習させ、脳で何が起きているかを確かめることにしました。

すると意外なことに、学習が成功したマウスたちは「学習後」になってから、快楽や意思決定にかかわる線条体(せんじょうたい)の働きが、活発化していることが判明します。

このような線条体における活発な働きは、学習中にはみられないものでした。

研究者たちは、忙しい学習が終わって休憩段階になったことで脳内での記憶の整理と統合が進み、学習の成果が生じたと考えています。

似たような現象は人間でも発見されています。

練習中ではなく「頻繁な休憩」がスキルを上達させると判明

ですが今回、研究者たちはさらに詳細な仕組みの解明を目指しました。

快楽や意思決定にかかわる線条体は複数の部位から構成されているのですが、研究者たちは各部位に長期記憶の形成を妨げる薬物(アニソマイシン)を注射。

線条体全体から長期記憶にかかわる領域の絞り込みを行いました。

すると、予期せぬ結果が現れます。

伝統的に行動学習にかかわるとされてきた領域を阻害しても記憶の定着に問題がなかった一方で「古い習慣」を担う部位(背外側 線条体)を阻害したところ、記憶の定着が大きく妨げられたからです。

いったいどうして、新しい記憶の定着に、習慣がかかわってくるのでしょうか?

次ページ脳は新規と習慣を競わせることで記憶を選別している

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