カエデの種子の「空気力学」を模倣
カエデの種子が、歩道にそっと落ちていく様子を見たことがあるでしょうか。
カエデの種子には、昆虫や鳥の羽のようなものがついており、枝先から離れると同時に、プロペラのように回転しながら風に乗って飛んで行きます。
これは、植物が種の生存率を高めるために、巧妙かつ洗練された方法を進化したことを示す例です。
種子を広範囲に分散させることで、自らは移動力をもたない草木が子孫を遠い場所に送り届けることができます。
こちらが、カエデの種子が落ちる様子を捉えたスローモーション映像です。
研究主任のジョン・A・ロジャース氏は、こう話します。
「カエデの種子の洗練された構造は、ゆっくりと制御された方法で落下するように設計されているため、可能な限り長い時間、風のパターンと相互作用できます。
そのおかげで、空気中のメカニズムによる受動的な横方向の分布が最大化されるのです」
研究チームは、マイクロフライヤーを設計するべく、カエデの種子の形と空気力学を応用しました。
最も飛行に適した構造を特定するため、落下する種子の周りを空気がどのように流れるか、実物大のコンピューターモデルを使って解析。
このモデリングに基づいて、チームは、3枚の羽を組み合わせたマイクロフライヤーを試作しました。
マイクロフライヤーは、ミリサイズの電子機能部品と翼部の2つのパーツから構成されます。
空中を落下する際には、翼部が空気と相互作用して、ゆっくりと安定した回転運動を行います。
また、電子機のパーツを中央部に置くことで、マイクロフライヤーの重心が偏り、飛行コントロールを失うのを防ぎます。
この部分には、センサーや無線通信用のアンテナ、データを保存するためのメモリーなどを搭載する予定です。
他にも、空気中の粒子を検出したり、水質を監視するためのセンサーや、あらゆる波長の太陽光を測定するための光検出器の搭載も検討されています。
実験の結果、本物の種子と同等の安定した落下飛行に成功しており、サイズも実物よりはるかに小型化されています。
落下飛行の様子。左が本物の種子で、右がマイクロフライヤー。
用途としては、飛行機やビルから大量に投下することで、化学物質流出後の環境の回復状況を監視したり、大気や川の汚染レベルをモニタリングします。
しかし、大量に落下したマイクロフライヤーのゴミはどうするのでしょうか。
チームは、その点も配慮済みで、時間経過とともに自然分解される安全な材料をマイクロフライヤーに使いました。
これにより、不要になったときに分解されて、土壌や地下水などの環境中に溶け出します。
こちらがその様子。
ロジャース氏は、次のように説明します。
「私たちは、分解可能なポリマー、堆肥化可能な導体、溶解可能な集積回路チップを用いました。
一時的な電子システムとしてはもちろん機能しますが、水にさらされると自然に消滅し、最終的に環境に優しい物質となります。
大量のマイクロフライヤーを回収するのは難しいため、自然かつ無害な溶解化は有効な手段となるでしょう」
研究チームは今後、将来的な実用化に向けて、さらなる改良と実証テストを行なっていく予定です。