細胞から「クロマチン」の染色に成功か
本研究では、中国東北部の遼寧(りょうねい)省にある地層で採取された「カウディプテリクス(Caudipteryx、尾に羽毛を持つもの)」の化石を調査対象としました。
カウディプテリクスは、白亜紀前期(約1億4400万〜9900万年前)に存在した羽毛恐竜で、全長は約1メートル。2足歩行で、長い尾羽と羽毛の生えた前肢を持ちますが、飛ぶことはできませんでした。
また、この場所は「熱河層群(Jehol Group)」と呼ばれ、地層の厚さは約1600〜2600メートル、上部が約1億1000万年前で、下部が約1億3000万年前に生成されたものです。
採取された化石は、約1億2500万年前のものと推定されています。

研究チームは、右大腿骨の化石から軟骨細胞の一部を取り出して脱灰し、顕微鏡や化学的手法を用いて分析しました。
(脱灰:生物の硬い組織からカルシウム成分を溶出させて軟化し、実験や調査を容易にするための手法)
その結果、カウディプテリクスの死後、すべての細胞が珪化によってミネラル化していたことが判明しました。珪化作用が、細胞の優れた保存を可能にしたと考えられます。
(珪化:生物の遺体が地中の珪酸の浸透で珪酸質に変わること)
さらにチームは、抽出されたいくつかの細胞を「ヘマトキシリン」という化学物質で染色しました。
この紫色の薬品は、細胞の核に結合することで知られます。
サンプルを染色したところ、1つの細胞に紫色の核と、それよりも濃い紫色の糸のようなものが見つかりました。
これは、1億2500万年前の恐竜の細胞核が、生前の有機分子やクロマチンの糸を残しているほど保存状態が良いことを示唆します。

クロマチンとは、本来、「細胞核内の染色されやすい物質」を指す言葉で、日本語では「染色質」と訳されます。
これと一緒によく耳にする「染色体(クロモソーム)」は、ある種の細胞分裂において、クロマチンが構造変換して生じるものです。
地球上のすべての生物の細胞内にあるクロマチンは、DNA分子が緊密に結合したものであり、遺伝子の発現や複製、修復にかかわっているとされます。
本研究の成果により軟骨細胞では核の化石化が起こりやすいことが示され、従来よりも長い時間でのDNA保存を理解する足がかりになるかもしれません。
研究を進めるには、今回使用した染色法よりもはるかに洗練された化学的手法を用いる必要があります。