落雷で死亡した痕跡は骨にの深くに残る
落雷で死亡した痕跡は骨にの深くに残る / Credit:canva
physics

落雷死は骨に法医学の証拠となる独特のパターンを残す

2021.11.06 Saturday

落雷で死ぬというのはかなりまれな出来事という印象がありますが、実際世界では年間2万4000人以上の人が落雷で命を落としています。

もし誰も目撃者のいない遠隔地で、落雷による死亡があった場合、その死体は司法解剖されることになるでしょう。

しかし、その死体が山奥で白骨化していた場合、法医学は落雷が犯人だったと特定することができるのでしょうか?

南アフリカ共和国のウィットウォーターズランド大学(University of the Witwatersrand:ウィット大学)、英国ノーサンブリア大学(Northumbria University)の法医学研究グループは、落雷で死亡した際に、骨細胞に放射状の跡が残ることを発見したと報告しています。

この成果は、事故死と殺人事件を区別し、また落雷死の正確な件数を割り出すために役立ちます。

研究の詳細は、11月3日付で科学雑誌『Forensic Sc​​ience International:Synergy』に掲載されています。

Harnessing Thor’s hammer https://www.wits.ac.za/news/latest-news/research-news/2021/2021-11/harnessing-thors-hammer.html Lightning Strikes Carve a Deadly Signature Deep Inside The Bones, Scientists Discover https://www.sciencealert.com/lightning-strikes-carve-a-deadly-signature-deep-inside-the-bones-scientists-discover
Harnessing Thor’s Hammer: Experimentally induced lightning trauma to human bone by high impulse current https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2589871X21000760?via%3Dihub

死体は語る

司法解剖などから異状死の死因の診断などを行う法医学
司法解剖などから異状死の死因の診断などを行う法医学 / Credit:depositphotos

科学捜査を主軸としたミステリードラマは、日本、海外を問わず人気ジャンルの1つです。

こうした作品がきっかけで、死体から事実関係を見つけ出す法医学に関心を持った人も多いのではないでしょうか。

法医学をテーマにした作品は、日本では古いものだと「きらきらひかる」、最近では「アンナチュラル」などのドラマが人気を博していました。

死体が発見されれば、それは何らかの死亡事件となりますが、事件に常に目撃者がいるわけではありません。

見つかった死体は事故で死んだのか? それとも殺人事件だったのか? これは事件捜査の最初の重要な判断になるでしょう。

法医学は、たとえ目撃者がいない事件でも、死体の状態からその人物に何が起きたのかを推理します。

死体には、専門家から見た場合に、数多くの死因につながる痕跡が残っているのです。

しかし、法医学の専門家が、物言わぬ死体からさまざまな事実を見つけ出せるのは、法医学研究がどんな死因ではどんな痕跡が残るかということを、少しずつ明らかにし、知識として蓄えてきたからです。

今回の研究を発表したのは、南アフリカ共和国の東大とでも言うべきウィット大学の法医学研究チームです。

アフリカでは、気候変動と共に落雷の発生件数が非常に増加しています。

これに伴い落雷による事故死の件数も増加していると推定されます。

南アフリカ、ヨハネスブルグの落雷。アフリカでは気候変動で落雷発生率が増加している。
南アフリカ、ヨハネスブルグの落雷。アフリカでは気候変動で落雷発生率が増加している。 / Credit:depositphotos

けれど、アフリカの遠隔地で落雷に遭った場合、そこには目撃者もおらず、死体も長く発見されずに放置されることがあります

死体が発見されたとき、それが落雷による事故死だったという事実は、皮膚の火傷痕や臓器のダメージから判定することが可能です。

しかし、それが白骨化していた場合、判断は極めて難しいものになります。

軟組織の失われた白骨死体から、死因が落雷によるものだったと判断する方法は、これまでのところ見つかっていませんでした。

今回の論文の種執筆者であるウィット大学解剖学部のニコラス・バッチ博士は次のように語ります。

「落雷による死亡者の特定は、通常、皮膚に残った痕跡や内臓の損傷から判断されます。

しかし体が分解され組織が失われれば、それは判断できなくなります。

私たちの研究は、乾いた骨しか残っていなかったときに、人間の骨格の奥深くに残された雷による損傷を特定する最初の研究です

これにより、死体が偶発的な事故で亡くなったのか、殺人事件だったのか識別できるのです」

ではこの研究によって、どうやって骨だけで落雷にあったことを判断できるようになったのでしょうか?

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