色彩豊かなレリーフが復元される
クヌム神殿は、古代エジプト神話に伝わる創造神の一人で、羊の頭をもつ神・クヌムに捧げられた建造物です。
建設はプトレマイオス時代(紀元前305〜紀元前30年)にまで遡りますが、そのほとんどが消失しており、今残っている部分はローマ帝国時代に建てられたことがわかっています。
(紀元41〜54年のクラウディウス帝の時代と、紀元249〜251年のデキウス帝の時代)
現在見られるのは神殿の前方部分のみで、これは長さ37メートル、幅20メートル、高さ15メートルほどあります。

神殿内のレリーフや壁画は、1963年から1975年にかけて、フランスの古代エジプト学者、セルジュ・ソヌロン(Serge Sauneron)により体系的に記録されました。
彼のおかげで、クヌム神殿に残された図像の豊富さと色彩の保存状態について、世界の考古学者が注目するようになります。
テュービンゲン大とエジプト古美術・観光省のチームは、2018年から、神殿内のレリーフ・壁画・碑文の調査と、洗浄による色の修復作業を始めていました。
そして今回、神殿入り口の上方14メートルにある天井で、色鮮やかなレリーフを新たに発見したのです。

同チームのクリスチャン・ライツ(Christian Leitz)氏によると、一連のレリーフには、ハゲワシの女神・ネクベトとコブラの女神・ウアジェトが合計46体描かれていたという。
両者とも翼を広げた鳥の形で描かれていますが、頭部がハゲワシとコブラに分かれていること識別できます。
ここでは46体が左右対称に並べられており、うち22体はコブラの頭を持ち、ウアジェトを表していました。
こちらは、そのレリーフを横から見たものです。

なぜ「ネクベト」と「ウアジェト」が描かれたのかというと、古代エジプト初期は、各地にいくつもの都市国家が乱立しており、これがやがて「上(かみ)エジプト」と「下(しも)エジプト」の2つにまとまりました。
そして、上エジプトの守護神がハゲワシの女神・ネクベト、下エジプトの守護神がコブラの女神・ウアジェトとされたのです。

それから紀元前3150年頃に、上エジプトのナルメル王によって、上下エジプトが統一され、エジプト第1王朝がスタート。
それ以降、ファラオたちは、上下エジプトの支配者として、ネクベトとウアジェト双方の化身であると考えられるようになりました。
ネクベトは月、ウアジェトは太陽をあらわし、ともにファラオの守護者や王権のシンボルとなったのです。


今回明らかになったネクベトとウアジェトの色彩は、専門家の間でも知られていないタイプのものだという。
研究チームは現在、神殿内の天井の半分以上と、18本ある柱のうちの8本の洗浄と記録を完了しています。
またチームは、神殿内で発見された碑文を翻訳する計画も進めているとのこと。
今後の調査でも、まだ見ぬ色彩豊かなレリーフや壁画が明らかになりそうです。