背中に「共生細菌」を匿うためのポケットを持つ甲虫がいた!
背中に「共生細菌」を匿うためのポケットを持つ甲虫がいた! / Credit: Science X: Phys.org, Medical Xpress, Tech Xplore – Beetles rely on unique ‘back pockets’ to keep bacterial symbionts safe during metamorphosis(youtube, 2022)
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Beetles Have A Clever Way to Keep Symbiotes Safe During Their Metamorphic Contortions https://www.sciencealert.com/beetles-have-a-clever-way-to-keep-symbiotes-safe-during-their-metamorphic-contortions Beetles rely on unique ‘back pockets’ to keep bacterial symbionts safe during metamorphosis https://phys.org/news/2022-08-beetles-unique-pockets-bacterial-symbionts.html
Morphological adaptation for ectosymbiont maintenance and transmission during metamorphosis in Lagria beetles https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphys.2022.979200/full

2022.09.08 Thursday

体がドロドロに溶けてしまう蛹の状態のとき虫の「共生細菌」はどうなっているのか?

ヒトの体内には、数えきれないほどの「共生細菌」が住み着いており、健康面で大きな役割を果たしています。

それは昆虫も同じです。

しかし、昆虫の中には、私たちのように単に大きくなるのではなく、「幼虫→蛹→成虫」と体を極端に変態させる種がいます。

とくに、蛹の段になると、体が一度ドロドロに溶けてしまいます。

とすると、幼虫に住み着いていた共生細菌はどうなるのでしょう?

幼虫と一緒に溶けてしまうのでしょうか?

独ヨハネス・グーテンベルク大学マインツ(JGU)を中心とする国際研究チームは、この謎を解くために、ゴミムシダマシ科の甲虫「ラグリア・ビロサ(Lagria villosa)」の変態プロセスを詳しく観察。

その結果、驚くべき事実が判明しました。

なんと本種の幼虫は、背中に共生細菌をかくまうための”ポケット”を持っており、蛹の間も、その中で細菌を保護していたのです。

研究の詳細は、2022年8月30日付で科学雑誌『Frontiers in Physiology』に掲載されています。

背中のポケットで「共生細菌」を匿う

ラグリア・ビロサ(以下、L. ビロサ)には、多種多様な細が共生していますが、中でも「バークホルデリア(Burkholderia )属」の細菌は、繁殖の成功にとって絶対に欠かせません。

L. ビロサの卵や幼は、感染症に対して脆弱です。

そこでメスの母親は、卵巣近くの腺からバークホルデリアを放出して、産んだばかりの卵に塗りつけます。

バークホルデリアは、抗菌作用を持つポリケチド化合物を生成するため、卵や幼虫の感染症を防いでくれるのです。

ところが、その共生関係が進むうちに、バークホルデリアは、L. ビロサの中で安楽な生活を送ることに慣れてしまい、自発的に動く能力を失ってしまったのです。

運動するための遺伝子や細胞構造も今ではほとんど失われており、自らの生存もL. ビロサに依存しています。

そこで研究チームは、動けなくなったバークホルデリアが、L. ビロサの変態中にどのような運命をたどるのかを追跡しました。

「ラグリア・ビロサ」の成虫
「ラグリア・ビロサ」の成虫 / Credit: RS Ranke – Beetles rely on unique ‘back pockets’ to keep bacterial symbionts safe during metamorphosis(phys, 2022)

まず、母親によって卵に塗布されたバークホルデリアは、約6日の間、卵の表面に露出したまま、卵にとって有害なバクテリアや菌類を撃退し続けます。

そして、幼虫が孵化すると、バークホルデリアは、幼虫の背中にある3つのヒダの中に集められるのです。

ヒダはまるでポケットのように機能し、バークホルデリアを保護していました。

また、研究者によると、ヒダにある腺細胞の分泌物がバークホルデリアの栄養源になっているといいます。

さらに、この背中のポケットは、幼虫が蛹に変態する中でも維持されていました。

蛹化する過程で、外皮がどんどん固くなるのですが、ヒダの形は残され、その中にバークホルデリアも匿われていたのです。

このとき、蛹の中身からバークホルデリアは検出されなかったため、体内には移動していないことが確認されています。

その後、L. ビロサは成虫として羽化を開始しますが、不思議なことに、ヒダ中のバークホルデリアは、成虫の腹部先端(生殖器部分)にそっくりそのまま移動していたのです。

チームはこれを検証すべく、バークホルデリアと同サイズ(幅1.0μm)のポリスチレン製蛍光ビーズを発育中の蛹に付着させ、脱皮時の移動プロセスを可視化しました。

すると、ほとんどのビーズが、蛹の脱皮線に沿って後方に移動し、最終的には、成虫の腹部先端に集まったのです。

脱皮線に沿って蛍光ビーズが腹部先端に移動するのを確認
脱皮線に沿って蛍光ビーズが腹部先端に移動するのを確認 / Credit: Rebekka Janke et al., Frontiers in Physiology(2022)

しかし、これと並行して、興味深い事実も発見されました。

それは、ここまで述べてきた変態中のバークホルデリアの保護と移動が、メスでしか見られなかったことです。

そもそも幼虫の段階で、背中のヒダの大きさがオスでは小さく、バークホルデリアの数もメスよりずっと少なくなっていました。

さらに、その傾向は蛹の段階でより顕著になり、オスの蛹には、もはやヒダのポケット部分がほぼなくなり、バークホルデリアも激減していたのです。

こちらの図を見れば、それがよくわかります。

左上:メス幼虫のヒダ、右上:オス幼虫のヒダ、左下:メス蛹のヒダ、右下:オス蛹のヒダ(赤点がバークホルデリア)
左上:メス幼虫のヒダ、右上:オス幼虫のヒダ、左下:メス蛹のヒダ、右下:オス蛹のヒダ(赤点がバークホルデリア) / Credit: Rebekka Janke et al., Frontiers in Physiology(2022)

研究者いわく、これはバークホルデリアが主に、卵を感染症から守ることに特化しているからです。

考えてみれば、バークホルデリアが背中のポケットに入った時点で、幼虫や蛹の健康維持のためにはほとんど働かなくなります。

次にバークホルデリアが必要となるのは、メス親が卵に塗布するときです。

これを踏まえると、なぜバークホルデリアがオスで少なく、メスで多いのかが理解できるでしょう。

研究主任の一人で、コペンハーゲン大学(University of Copenhagen)のラウラ・フローレス(Laura Flórez)氏は「成虫の段階でバークホルデリアを保持しておく目的は、次の世代への受け渡しを成功させるためでしょう」と説明します。

また、ヨハネス・グーテンベルク大学マインツのレベッカ・ヤンケ(Rebekka Janke)氏は「バークホルデリアの生物学的な重要性が、宿主をして、変態時に細菌を保護するための構造(ポケット)を進化させた可能性が高い」と述べています。

共生細菌は、子孫繁栄を願って受け継がれる”贈りもの”だったようです。

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