コロナ発生時の心理を1年後に回顧させると「過小評価」しやすくなっていた
コロナ発生時の心理を1年後に回顧させると「過小評価」しやすくなっていた / Credit: canva
psychology

記憶が歪む”回顧バイアス”研究―多くの人が「コロナ発生時は大したことなかった」と回答!?

2023.02.13 Monday

過去の出来事は記憶によって歪められ、実際の経験と思い出された経験との間にはしばしばギャップが生じます。

この心理ギャップを「回顧バイアス」と呼び、私たちがつい犯してしまいがちな思考や判断の偏りとなっています。

大阪大学大学院 人間科学研究科のチームは、この回顧バイアスの観点から、現在のコロナパンデミックが人間心理に及ぼしている影響を調査。

その結果、パンデミック発生直後(2020年1月)の心理を1年後に回顧させると、人々は当時を過小評価しやすくなる傾向が強く見られたのです。

人の記憶はたやすく歪められることがコロナ禍においても実証されました。

研究の詳細は、2022年11月9日付で学術誌『The Japanese Journal of Experimental Social Psychology』に掲載されています。

新型コロナ感染禍での回顧バイアス~人の記憶は容易に歪む~ https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2022/1109_01
Retrospective bias during the COVID-19 pandemic https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjesp/advpub/0/advpub_si5-2/_article

コロナ禍に対する「回顧バイアス」はどう生じていた?

研究チームは、世間が「新型コロナウイルス」を認知した直後の2020年1月以来、パンデミック下での社会心理についてパネル調査を続けてきました。

パネル調査とは、同じ人々に定期的に同じ質問をし、その回答の時間的な変化を分析するもので、いわばスナップショットを撮るようなものです。

チームは2021年1月に、それまでのデータ(2020年1月〜3月)をまとめた論文を学術雑誌に投稿しましたが、そのときに受けた審査コメントが今回の本格的な調査を始めるきっかけになったといいます。

そこには「感染者がほとんどおらず、まだ状況が深刻でなかった当時のデータを分析して、感染禍の社会心理の何がわかるのか」と書かれていたそうです。

チームは、このコメントこそ「今では大きな脅威となっている新型コロナだが、流行当初は大したことがなかった」という回顧バイアスのあらわれではないかと考えました。

つまり、現在の視点から過去の出来事を歪曲している可能性があるのです。

コロナ禍に対して「回顧バイアス」は起きているか?
コロナ禍に対して「回顧バイアス」は起きているか? / Credit: canva

そこで本研究では、人々がコロナパンデミックについて、これと同じような回顧バイアスを持っているのかを調べることに。

調査ではまず、2021年1月に行ったパネル調査に、2020年1月当時の心理状況を回顧することを求める次の質問をしました。

・昨年(2020年)1月頃のあなたは、新型コロナウイルスの流行にどの程度関心がありましたか。(1全く関心がない~7非常に関心がある)

・昨年(2020年)1月頃のあなたは、新型コロナウイルスの感染についてどのように感じていましたか。(恐ろしさと未知性の2項目で、1全く感じない~7非常に感じる)

そして、同じ回答者たちが2020年1月に答えていた同じ質問への回答と比較しました。

分析には、2020年1月〜2021年1月までに実施した11回のパネル調査のすべてに回答した597名(日本人)のデータを使用。

その結果、コロナパンデミックについての社会心理は、あらゆる項目において2020年1月の時点ではかなり高い緊張状態にあったものの、1年後(2021年1月)には過小に回顧していることが判明したのです。

こちらは2020年1月(赤)と2021年1月(青)の回答を比較したグラフで、これを見ると人々は回顧によって「コロナの流行当初は大したことがなかった」と記憶を歪曲していることが伺えます。

新型コロナへの「関心・恐ろしさ・未知性」に関する回答
新型コロナへの「関心・恐ろしさ・未知性」に関する回答 / Credit: 大阪大学 – 新型コロナ感染禍での回顧バイアス~人の記憶は容易に歪む~(2022)

私たちが回顧バイアスから逃れられないことは、これまでの多くの研究で示されています。

ただし、回顧バイアスの特徴は「どの出来事をどんなタイミングで思い出すか」で変わってくるので、今回示された傾向も、感染者数が急増していた頃に初期の流行時を思い出したからこその結果である可能性があります。

よって研究チームは「回顧バイアス全体に共通する特徴を見出すには、さらなる研究の蓄積が必要である」と注意を促しました。

それでも今回の結果は、パンデミックのような長期に継続し、かつ変化も大きい出来事について回顧的な評価や測定を行うのは、不適切で偏見に満ちた結論に至る危険性が高いことを示唆するものでしょう。

研究主任の山縣芽生(やまがた・めい)氏は、次のように述べています。

「人の記憶が容易に歪むことは一般的にもよく知られていますが、新型コロナ感染禍を長く経験した社会が次の段階へと移行しつつある今だからこそ改めて考えたい、重要な心理現象です。

新型コロナ感染禍での経験を無駄にしないためにも、”記憶”に頼りすぎず、”記録”しておくことは将来の感染禍で役に立つと考えられます。

記憶に頼ることでの歪みを最小限に抑える簡単は方法は、自分の記憶を一度疑ってみることです。

それだけでも、不適切な結論を防げるかもしれません」

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