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Credit:clip studio . 川勝康弘
biology

男女では痛みを感じる「痛覚受容体そのもの」が異なると判明! (2/2)

2024.06.17 Monday

2024.06.15 Saturday

前ページ「男性より女性のほうが痛みに強い」は間違いである

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男性痛覚受容体と女性痛覚受容体がそれぞれ存在している

今回の研究が画期的な点として、プロラクチンとオレキシンBという2種類の物質が使用されたことがあげられます。

古くは、プロラクチンは授乳と乳房組織の発達に関連したホルモンで、オレキシンBは覚醒をうながす神経伝達物質であるとされてきました。

しかし近年の研究により、これら2種類の物質は考えられていたよりも遥かに多くの機能を持つことが明らかになってきました。

調査にあたってはマウス、サル、そしてヒトの脊髄神経が男女別に用意され、反応の閾値をさげる物質が加えられました。

これにより細胞はわずかな刺激でも反応しやすくなります。

研究者たちはこの状態でプロラクチンとオレキシンBを注いでみました。

すると驚くべきことに、人間でも動物でも、プロラクチンは女性細胞のみに感作(かんさ:刺激の繰り返しで反応が増大すること)を起こし、男性細胞には感作しないことがわかりました。

またオレキシンBを加えた時には、人間でも動物でも、女性細胞は感作しなかったものの、男性細胞だけに感作が起こることがわかりました。

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Credit:clip studio . 川勝康弘

これらの結果は、男性細胞と女性細胞にはそれぞれ、男性痛覚受容体と女性痛覚受容体が存在しており、男女では痛みを受け取る検知器そのもの(痛覚受容体そのもの)が異なっていることを示します。

さらにこの男女で痛みの検知器(痛覚受容体)が違うという仕組みは種を超えて広く保存されていることをがわかりました。

また研究では別角度からの検証を行うため、プロラクチンとオレキシンBのシグナル伝達システムを遮断し、痛覚受容体の敏感さ(閾値)を調べてみました。

するとプロラクチンシグナル伝達を遮断すると女性の痛覚受容体の活性化が抑えられたものの男性には影響はありませんでした。

またオレキシンBシグナル伝達を遮断すると、男性の痛覚受容体の活性化が抑えられましたが、女性には効果がありませんでした。

この結果も、男性と女性は異なる種類の痛覚受容体を持っていることを示しており、女性の痛み治療にはプロクラチン経路の遮断、男性の痛み治療にはオレキシンB経路の遮断が有効であることを示しています。

これまで私たちは、男女の痛みの感受性は脳の働きの違いや、文化的影響により男女で痛みの報告に差があることが原因であり、細胞レベルでは違いがないと考えてきました。

そして治療に使われる各種の鎮痛剤も、そのような前提で使用・開発が行われてきました。

しかし今回の研究によって、痛みの治療には、男性用と女性用に特化した対処法(薬など)を提供した方が有効である可能性が示されました。

研究者たちも「最も基本的な遺伝的差異は、患者が男性か女性かということであり、患者の遺伝子(性別)にあわせた痛みの治療を行うことが重要になる」と述べています。

実際、最新の研究では女性の痛み治療にプロラクチン中和抗体が有効であること示唆されています。

またオレキシンの効果を打ち消すオレキシン拮抗薬が、睡眠障害の治療薬としてFDA(食品医薬品局)に既に承認されています。

こちらは痛み治療とは用途が異なりますが、安全性の確認が行われた上で承認されているため、痛み治療への転用も比較的容易であると考えられます。

もしかしたら未来の薬局では、頭痛薬など基本的な鎮痛剤も男性用と女性用で別れて売られているかもしれませんね。

【編集注 2024.6.17】
記事内容に一部誤りがあったため、修正して再送しております。

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男女では痛みを感じる「痛覚受容体そのもの」が異なると判明! (2/2)のコメント

ひの

「またオレキシンBを加えた時には、人間でも動物でも、男性細胞は感作しなかったものの、男性細胞だけに感作が起こることがわかりました。」
この部分、意味が通りません。「女性細胞は感作しなかった」の間違いでは?

ひの

元論文のAbstractを読みましたが、「痛覚受容体」については一言も書かれていませんね。この記事のタイトルは明らかに間違っています。

ぽすと

またオレキシンBを加えた時には、人間でも動物でも、男性細胞は感作しなかったものの、男性細胞だけに感作が起こることがわかりました。

こんばんは、
どちらも男性になってしまっています。

ペインキラー

記事冒頭の文章「動物でも人間でもオスのほうがメスよりも痛みに鈍感であり、痛みを感じる閾値が低いことが明らかになってきました。」はおかしくないですか?
正しくは「痛みに敏感であり、痛みを感じる閾値が低い」ではないでしょうか?
あるいは「痛みに鈍感であり、痛みを感じる閾値が高い」のどちらかでしょう。

よっしー

興味深い記事、ありがとうございます。一般的に、痛みに対する閾値とは痛みの感じにくさを示す値で、痛み刺激が閾値をこえると痛みが発生します。なので、閾値が低いほうが痛みは感じやすくなります。痛み止めは痛みの閾値を上げる(高くする)薬です。

ゲスト

「オレキシンBを加えた時には(中略)男性細胞は感作しなかったものの、男性細胞だけに感作が起こ」ったとありますが、これはどちらが女性の誤字でしょうか?

ゲスト

トランスジェンダーの人がどんなに努力しても、違う性別に変わることは出来ないってのが証明されてしまった.

ゲスト

>トランスジェンダーの人がどんなに努力しても、違う性別に変わることは出来ないってのが証明されてしまった.
それな

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