5本指は陸上時代の名残り?
こちらが、シェルツ氏が公開した解剖画像です。
This is what it looks like when you remove the inter-digital flesh from a whale’s flipper. Amazing to see how well the pentadactyl limb is retained! pic.twitter.com/GPu602wXz5
— Dr Mark D. Scherz (@MarkScherz) September 1, 2021
ツイートには「クジラのヒレから指の間の肉を取り除くと、こんな感じです。5本指の生えた手がいまだに保持されているのが驚くほどわかります」と書かれています。
シェルツ氏によると、このクジラはデンマーク海域の浜辺に打ち上げられた個体で、おそらく、北大西洋に分布する「ヨーロッパオウギハクジラ(学名:Mesoplodon bidens)」であるとのこと。
より希少な「ヒガシアメリカオウギハクジラ(学名:Mesoplodon europaeus)」との識別が困難ですが、こちらはデンマーク海域で観察された例がないため、ヨーロッパオウギハクジラと見て、まず間違いないようです。
シェルツ氏は、この個体が打ち上がった日に、デンマーク自然史博物館の同僚から翌日解剖される旨のメールを受け、解剖に立ち会いました。
動物の解剖が行われる際は、あらゆる方面の研究者が集って、形態のデータ収集や議論が交わされるそうです。
クジラは、生物の進化史において特異な位置をしています。
そもそも陸上のあらゆる脊椎動物は、すべて海の生物から派生したものです。
およそ3億5000万年前のデボン紀後期に、肉厚のヒレを持つ「肉鰭(にくき)類」の生物が陸上に進出し、原始的な四肢動物が誕生しました。
四肢動物は、陸上生活に適応するための最良の手段として、5本の指が生えた四肢を手に入れます。
その後、四肢動物がどんどん繁栄していく中、約5300万年前に、原始クジラの「パキケトゥス」が出現します。
ところが不思議なことに、原始クジラの系統は進化の過程で少しずつ水中に適応し始め、最終的には完全な水中生物に逆戻りしたのです。
水中から出て、再び水中に戻った生物は他に知られていません。
その過程で四肢を失くし、再びヒレを取り戻したのですが、今回の解剖から、5本指の名残がまだ残っていることがよく分かるでしょう。
シェルツ氏は、次のように話します。
「クジラの奇妙な”5本指”は、進化の奇妙さを示す、むしろ美しいデモンストレーションと言えます。
生物の進化は、ありものをいじくり回すことで実現してきました。
一からまったく新しい構造を作るよりも、既存の構造を再利用する方が簡単で、はるかに効率的なのです」
私たち人間で言うと、耳の付け根の小さな穴は、魚時代のエラの名残であることが分かっています。
他にも体をいろいろ探ってみれば、水中にいた頃の名残が見つかるかもしれません。