銀河は宇宙にたくさんある!
星雲は銀河なのか? 天の川銀河以外にも外の宇宙に銀河はあるのか? この論争は意外なほど長く続き、20世紀になってもまだ決着が付きませんでした。
それは遠い天体との距離を測る方法がいつまで経っても見つからなかったためです。これについては、ほとんどの天文学者があきらめムードになっていました。
しかし、1912年アメリカの女性天文学者リービットがその問題を解決させます(リービットの偉業を含め、天体との距離の測り方についてはこちらの記事を参照)。

リービットはセファイドと呼ばれる変光星を利用して、遠い天体と地球との距離が測定できることを発見したのです。
残念ながらリービットは十分な評価を受けることもないまま、この世を去ってしまいます。しかし、彼女の発見が最終的に星雲の正体に関する問題を解決することになるのです。
この長い論争に決着をつけたのは、世界一有名な宇宙望遠鏡の名前にもなっているアメリカの天文学者エドウィン・ハッブルです。

当時の天体観測はとても過酷なものでした。
ハッブルの務めていたウィルソン山天文台は、標高1700メートルの高地にあり、夜間の天体観測はかじかむ手で望遠鏡の角度を調節しながら、眠気をこらえて長時間集中を保たなければなりません。観測中は涙が凍りつき、望遠鏡の覗き口に目が張り付くこともあったといいます。
ハッブルはそんな過酷な天体観測に勤しみながら、とても華麗に振る舞っていました。
彼は非常に洒落た目立ちたがり屋で、陸軍のトレンチコートを着て観測を行い、パイプに火をつけるときは擦ったマッチを空中で一回転させてキャッチするというパフォーマンスを見せていました。

星雲の正体に関してはウィルソン山天文台でも意見が分かれていました。
天文台の多くの天文学者たちは、天の川銀河が宇宙で唯一の銀河であり、星雲は銀河の中にあると考えていました。
しかしハッブルは、星雲は遠い宇宙にある別の銀河だという説を支持していたのです。
ハッブルはこのとき繰り返し繰り返しアンドロメダ星雲の撮影を行っていました。
あるとき天候が良かったので少し露光時間を伸ばして撮影したところ、写真の中に明るく輝く星を見つけました。最初彼はそれを「新星」だと考えていました。
しかし、他の写真と見比べたところ、それがセファイド(変光星)であることに気づいたのです。

星雲の中にセファイドを発見したということは、リービットの研究を使えば、その星雲の距離を測ることができるということです。
ハッブルは観測データとリービットの研究データを比較してその距離を計算しました。
その結果アンドロメダ星雲はおよそ90万光年の彼方にあるとわかったのです。
天の川銀河の直径はおよそ10万光年です。これはアンドロメダ星雲が天の川銀河のはるか彼方の外に存在していることを意味していました。
そして、そんな遠い天体が雲のように見えるということは、それがガスの塵ではなく、無数の星々が集まって輝いている別の銀河だということです。
こうして1771年にメシエによってカタログの31番目の星雲として記録されていた天体が、実は銀河だったということが明らかになったのです。
1923年のことでした。
こんな長い経緯があったため、今でもメシエカタログに記録された天体は銀河なのに星雲と呼ばれることがあるのです。
今では、メシエカタログに記録された多くの星雲が銀河であることが分かっています。その一覧はNASAのページで見ることができます。
天文学の歴史に思いを馳せながら、ぜひメシエカタログの天体を眺めてみましょう。
ちなみにウルトラマンの故郷M78星雲は本当にただの星雲です。しかし、これは台本の印刷ミスだったと言われていて、本当の設定ではM87星雲なのだそうです。
M87星雲は、私たち天の川銀河も含めた100以上の銀河が集まる「おとめ座超銀河団」の中心となる楕円銀河です。
こっちのほうが確かにウルトラマンの故郷に相応しい感じがしますね。この勘違いも、星雲と慣習的に呼んでしまっていたことが問題だったのかもしれません。