人が直感的に善悪を判断する経緯が明らかに 

psychology 2018/10/06

Point
・「ADCモデル(主体・行為・結末モデル)」という枠組みを用いた実験で、物事が道徳的に正しいかどうかを人が直感的に判断する仕組みが明らかになった
・人は、危険度が低い状況では「結末」よりも「行為」自体の良し悪しを、より危険度が高い状況では「行為」自体よりも「結果」の良し悪しを重視して、善悪を判断する
・ADCモデルは心理学の分野だけでなく、AIや自動運転などの「何が倫理的行動か?」の判断機能を搭載する必要がある技術の開発にも活用できる

多くの人が「嘘は悪い」と考えるでしょう。でも、「ユダヤ人家族の居場所を隠すためにナチスに嘘をつくこと」は悪いことでしょうか?「嘘も方便」、「優しい嘘」という言葉もあるように、時として嘘をつくことが正義と判断される場合もあります。面白いのは、私たちは熟考の末にこの判断にたどり着くわけではなく、経験則に基づいて「瞬間的に」到達しているということです。

最新の研究で、物事が道徳的に正しいかどうかについて、人がどうやって直感的に判断するのかが明らかになりました。研究を行ったのは、ノースカロライナ州立大学で倫理と認知の相関を研究するVeljko Dubljević氏ら。ADCモデルという枠組みを用いて大規模実験を行いました。危険度が低い状況では「結末」よりも「行為」自体の良し悪しが重視され、危険度が高い状況では「行為」自体よりも「結果」の良し悪しが重視されることを発見しました。

Deciphering moral intuition: How agents, deeds, and consequences influence moral judgment
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0204631

人が善悪の直感的判断の仕組みを解明しようとする試みは、数世紀にわたって数多く行われてきました。しかしDubljević氏によると、これらは「単一の因子に基づいて善悪は判断される」という決定的な過ちを抱えているとのこと。Dubljević氏らの新しい研究では、「複数の因子の相互作用によって物事の善悪は判断される」という新たな観点を提供し、長年の議論に一石を投じています。

研究チームが用いたADCモデルは、Aは物事を行う本人の性格や意図を意味する「Agent/主体」、Dはなされる物事を指す「Deed/行為」、Cは行為の結果生まれる「Consequences/結末」をそれぞれ意味します。人は善悪を判断する時、これら3つの因子を瞬時に考慮するのです。「このアプローチを使えば、嘘をつく時の倫理的状況の変動性だけでなく、『意地悪をしたり傷つけたりすることが目的であれば、真実を言うことは悪いと判断されることもある』という真逆の状況も説明できます」と、Dubljević氏は説明しています。ADCモデルを用いれば、倫理感、義務感、結果論を元に行動指針が直感的に決まること、また善悪の判断が変動的であると同時に安定的である理由を説明することができます。

研究チームは、日常の場面と非日常の場面の両方を描いた複数のシナリオを用意しました。これらのシナリオは、一般人から哲学者まで幅広い人々にとって論理的かつ現実的で、分かりやすくつくられています。

528名の被験者から成る1つ目のグループは、危険度が低く、悲惨な結末には至らない場面を描いたシナリオの評価を行いました。786名の被験者から成る2つ目のグループは、深刻な怪我や死が最終的にもたらされるような、危険度が高い場面を描いたシナリオの評価を行いました。また、全てのシナリオについて、倫理的トレーニングを受けた141名の哲学者が評価を行いました。

危険度が低いシチュエーションでは、「結末」の良し悪しよりも、「行為」自体が道徳的かどうかが、物事の善悪を決めるもっとも有力な因子でした。「嘘をついているか?真実を語っているか?」ということが一番重要で、最終的に良い結果になるかどうかは二の次だったのです。これに対して、より危険度が高いシチュエーションでは「主体」・「行為」・「結末」の力関係が変化し、「結末」の良し悪しがもっとも強い因子でした。特に、最後に良い「結末」がもたらされる場合は、「行為」そのものの善悪の違いはそれほど重要ではありませんでした。たとえば、飛行機でたくさんの乗客の命を救える可能性があるような状況では、道徳的行為とは一見かけ離れた暴力などの行為が正当化されることも多いでしょう。

さらに、一般人も哲学者も結果が同じだったことから、善悪の直感的判断の仕組みは一般化できることが分かりました。また、性別、年齢、教育レベル、社会的地位は関係がなかった一方で、個人の「行動指針の好み」が各因子の働きを抑制する効果を持つことも明らかになりました。

 

ADCモデルは、心理学の分野に留まらず、他分野で活用の可能性を秘めています。たとえば、「何が倫理的行動か?」を判断する機能を組み込む必要がある、AIや自動運転の技術に役立てられると考えられています。

 

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via: news.ncsu / translated & text by まりえってぃ

 

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