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人は大きな利益より「損失回避」を選ぶという「プロスペクト理論」が生活習慣を改善する

2021.01.27 Wednesday

2018.12.24 Monday

Point
■人にはできるだけ「損失」を回避して確実に得をしようとする行動傾向があり、これを「プロスペクト理論」と呼ぶ
■イギリスの大手保険会社がプロスペクト理論を使って、人の運動へのインセンティブを高めるプログラムを実施した
■プログラムに目をつけたイギリス政府も、同様の方法で国民の健康を増進する方法を検討している

想像してみてください。あなたは次のラッキーな二択からひとつを選ぶことができます。その1「無条件で50万円がもらえる」。その2「2分の1の確率で100万円がもらえる」。さて、あなたはどちらを選びますか?

「その2」を選んだ人は勇者ですが、おそらく多くの人が「その1」を選ぶのではないでしょうか。これは「プロスペクト理論」と呼ばれる心理作用のひとつで、人は大きな利益が得られるかもしれない可能性よりも、確実に得をする道を選び、「損失」を回避する傾向にあることを示しています。

それでは、次の二択はどうでしょう?

その1「100万円の借金を無条件で50万円にできる」。その2「100万円の借金を2分の1の確率で0にできる」。こちらはおそらく「その2」を選択する人が多いでしょう。「その1」を選べば支払額は減りますが、確実に借金は残ります。一方で、2を選べば50%の確率で借金を0にできるのです。この行動も同じ「プロスペクト理論」に基づくものであり、とにかく私たちは「損失」をできるだけなくそうと無意識に行動するのです。

多くの国で不健康な生活習慣により、2型糖尿病を発症する人が続出しており、それが原因で医療費も増加し続けています。2型糖尿病は、生活習慣を見直せばすぐに改善が見込める病気であるため、健康増進型の保険を提供するイギリスの “VitalityHealth” 社はこのプロスペクト理論を用いて、40万人以上の会員の健康へのインセンティブを高めようと画策しています。

■「損失を回避」するためにジムに通う人々

VitalityHealth社ではこれまで、定期的にジムに通って健康増進を試みる契約者に対して「映画のチケット」や「カフェのクーポン」などのインセンティブを与えてきましたが、新たな試みでは「アップルウォッチ」がそこに用いられました。そのシステムは至ってシンプルであり、会員は定期的にジムへと通うことを条件に、アップルウォッチを格安価格で購入できます。しかしジムへ通うことをやめてしまえば、追加で金額を支払わなければならない結果となってしまうといったものです。

会員のうちおよそ10万人がこのオファーを受け、実際にアップルウォッチを手にしています。そして調査の結果、アップルウォッチを得た人々の運動量に「著しい増加」が確認されました。つまり、人々は「これ以上アップルウォッチにお金を払いたくない」といった「損失を回避」するためのプロスペクト理論に従った行動により、運動へのモチベーションを高めていたことが考えられるのです。

この結果にはイギリス政府も興味を示しています。つまり、イギリスの国民保険サービス(NHS)は、これをヒントにした健康増進のためのプログラムを考案するかもしれません。すなわち、国民が欲しがるものを「運動を続ける」といった条件のもとで与え、運動が続けられなくなったらその支払いを要求するといったプロスペクト理論に基づくこの方法は、生活習慣病に苦しむ多くの国民を救い、医療費も削減できるといった夢のような結果を生み出す可能性を秘めているということです。

referenced: bbc / written by くらのすけ / edited by Nazology staff

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