重度の神経損傷でもポリマーとタンパク質で治療できる技術が開発される

chemistry 2020/01/25
製造途中のチューブ。これから外皮を巻きつけて、微小球を壁に埋め込む。微小球には神経を誘引するタンパク質がつめられている/Credit:Science Translational Medicine
point
  • 重度の神経断裂を再生させる技術が開発された
  • 神経を誘引するタンパク質を埋め込まれたチューブが神経再生のガイドラインになる

毎年、多くの人が怪我や病気により、神経に損傷を受けています。

しかし人間の再生能力は限定的であり、1/3インチ(0.8mm)以上の神経の破壊や欠損が起きた場合は、自然な治癒が望めず、感覚の回復を行うには、体の他の場所から神経を移植するしかありませんでした。

また神経の移植を行ったとしても、移植元の感覚が損なわれるうえに、移植先でも元通りの感覚に戻るのは難しく、多くは50〜60%程度の回復しか望めません。

ですが今回の研究で用いられた、神経栄養因子で満たされたチューブを、失われた神経の間に橋渡しすることで、広範な神経ダメージに対しても80%近くの治癒が可能になりました。

実験結果は1月22日、ピッツバーグ大学のニール・B・ファディア氏らによって学術雑誌「Science Translational Medicine」に掲載されました。

Long-gap peripheral nerve repair through sustained release of a neurotrophic factor in nonhuman primates
https://stm.sciencemag.org/content/12/527/eaav7753

チューブの壁にグリア細胞から抽出した成長因子を埋め込む

チューブの断面図。四角で囲まれた部分に神経を誘引する微小球が埋め込まれている/Credit:Science Translational Medicine

失われた神経が再生して再び接続するには、神経を再生するためのシグナル分子が、欠損部位を超えて両端の神経を刺激しなければなりません。

しかし、神経の欠損距離が長いと、シグナル分子は散乱して相互の連絡をとれず、神経の再生は行われません。

そのため自然治癒可能な神経の範囲は、通常は1/3インチ(0.8mm)程度とされていました

そのため、この限界を超えて神経を再生させるには、従来の技術では体の他の部分から神経を切り取って、再配置するしかありませんでした。

そこで、研究者は生分解性のチューブを使い、神経の再生のためのガイドラインを、断裂部分に橋渡しすることを考えました。

このチューブはただの空洞ではなく、神経を構成するグリア細胞由来の神経栄養因子を蓄えた微小球を、壁の中に埋め込まれています。

神経栄養因子は、神経の突起部分であるニューロンの生存を促すことが知られています。

研究者は、埋め込まれた微小球から持続的に神経栄養因子が放出されることで、これまでの限界を超えた神経細胞の持続的な伸長と再接続が可能になるだろうと予測しました。

研究者たちは効果を検証するために、このチューブを、2インチ(5cm)の神経を切り取られたサル(マカク)の腕に埋め込み、経過を観察しました

結果は成功で、チューブは神経成長のガイドラインとして持続的に機能し、1年後、サル(マカク)は重度の神経ダメージを再生させ、最終的に機能の80%近くを回復させました。

人間への応用

実験動物にされたマカク/Credit:wiki

事故による怪我や戦場での傷などで、多くの人が神経の接続を絶たれ、手足が物理的に繋がっていても、動かすことができなくなります。

今回の研究は実験動物に人間にとって近縁種ともいえるサルを使っているために、人間への応用の道は開けていると言えるでしょう。

このチューブは最大4.7インチ(12cm)の神経の間を修復するように設計されていますが、この距離の神経を再生させる場合は、最低でも3年かかるとのこと。

現在、研究者は2021年に人間への試験を開始したいと考えていますが、結果が出るのはさらに3年後の2024年以降になる予定です。

 

reference: eurekalert / written by ナゾロジー編集部

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