型には「蜜蝋」が使われていた?
ステンシル画を調べてみると、すべて輪郭線が丸みを帯びていたことから、粘土のように簡単に整形できる材料を使ったと思われます。
そこで民族史研究に当たってみると、アボリジニのグループは放浪中、常に蜜蝋を持ち歩いていたことが記録されていました。蜜蝋はミツバチの巣に使われているロウを精製したものです。
記録によると、蜜蝋の用途はさまざまで、棒の先にモリを固定するのに用いたり、子どものオモチャを作るのに使われていました。蜜蝋は加熱すると柔らかくなり、好きな形を作るにはもってこいです。
そこで研究チームは、蜜蝋を用いて、洞窟内に見つかったものと同じ人の型を作りました。
同チームのリアム・ブレイディ氏は「蜜蝋は、実際の図像に見られる細かなディテールを再現することも可能でしたし、何より岩壁に貼り付けるのにとても向いていた」と話します。
そしてペイント具であるスプレーは、同地域で簡単に入手できるカオリナイトの粘土を水と混ぜて再現しました。
再現された図像がこちらです。
かなり忠実に再現できているのが分かります。
また、アボリジニがステンシル画を描いた理由について、ブレイディ氏は「洞窟を神聖な場所と見なしていたことから、先祖の記憶を刻む目的や図像に魔術的な意味合いが込められていたのかもしれない」と指摘しています。