量子の世界では、小さな過去干渉が未来を変える「バタフライ効果」が存在しないと判明!

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古典物理の世界では過去の僅かな改変が未来を大きく変えるとされる/Credit:pixabay
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  • 古典的世界では過去改変はわずかであっても重大な変化を引き起こす
  • しかし量子世界では過去改変は現実には大きなダメージはない
  • 量子世界では量子のもつれの複雑性はバタフライ効果の震源地ではなく過去改変による変化の抑制効果をもつ

SF小説の世界で、タイムマシンを作った記念に幼少期のヒトラーを見に行く計画を実行したとします。

しかし未来に帰ると、ヒトラー率いるナチスが全世界を支配する世界に変わっていた…。

過去に”少し”干渉しただけで、世界に”大きな”影響を与えてしまったのです。

SFに詳しい人ならば、これはいわゆる「バタフライ効果」のせいだと気付くと思います。

バタフライ効果とは過去の些細な改変であっても、出来事の連鎖反応を引き起こし、未来を全く別物に変えてしまうという考え方です。

今回の研究のより、私たちの感覚とは大きく異なる量子の世界では、このバタフライ効果がほとんど起こらないと判明したようです。

アメリカにおいて軍事・機密研究の中核として知られるロスアラモス国立研究所が行った量子コンピューターによる「タイムトラベル」シミュレートでは、過去の情報にダメージを与えても、「現在」に戻った時にはほとんど変化がないことがわかりました。

しかしいったいどうして量子世界ではバタフライ効果が存在しないのでしょうか?

量子の世界では過去改変によるバタフライ効果が引き起こされない

過去でボブが観測を行うことで未来のアリスが受け取る結果に大きな変化が出るとおもいきや、違いました。アリスはゲートPで中央クォビットを準備し、スクランブルユニタリーUˆを適用します。ボブは、ゲートRで定義された任意の基底で中央クォビットを測定し、Sは対応する測定後の状態にクォビットを反転させます。アリスは、単一の復号化ユニタリーUˆ †を介して符号化された情報を再構成することができます。/Credit:PHYSICAL REVIEW LETTERS

時間旅行は常に人間を魅了してきました。

そして多くのタイムトラベルものの映画は、僅かな過去干渉が引き金となって、未来が劇的に変化してしまう様子を描写し、観客をさらに熱中させています。

映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」では主人公が過去の世界にスポーツの勝ち負けを記録した本を持ち込んで放置したために、本を拾った悪者がスポーツクジで大儲けし、未来を地獄絵図さながらの世界に変えてしまう描写があります。

一冊の本の有無によって、未来が激変したのです。

同じようなバタフライ効果が過去の量子演算中に引き起こされた場合、小さな改変が未来に出力される結果を全くの別物に変えてしまうでしょう。

しかし量子の世界ではそうならなかったようです。

ロスアラモス国立研究所のチームは上の図のような実験を行いました。

この実験では、過去に飛んだボブが未来でアリスが受け取る量子情報の一部を「観測」によって破壊することからはじまります。

量子コンピューターが正しく動作するには量子的なもつれを保つことが必要不可欠です。

またこの量子もつれは観測を含む外部からの干渉によって破壊されてしまうことが知られています。

シュレーディンガーの猫が入った箱で例にたとえるなら、量子コンピューターを動作させるには、箱の中にいるシュレーディンガーの猫が生きている状態と死んでいる状態の重ね合わせであることが必要であり、箱をあけて観察することは、この重ね合わせを破壊して量子コンピューターをダメにしてしまうのです。

そのため、これまでの見解では、過去のボブが行った観測によって量子のもつれは破壊されるだけでなく「バタフライ効果」が量子世界で発生し、未来にいるアリスが受け取る情報は、過去干渉が行われる前とは全く別物になってしまうはずでした。

ですが量子コンピューターを用いたシミュレーションでは、ボブの行った破壊工作(観測)は連鎖的な破壊を生みださず(バラフライ効果を起こさず)、まるで自己再生が起きたかのように、現代にいるアリスにとっては取るに足らない小さな局所的な損傷しか生じないことを発見しました。

研究者は、量子の世界ではバタフライ効果を抑制し現実を再生する何かが存在していると考えたようです。

量子もつれの複雑性は未来を固定する性質がある

量子的なもつれが複雑化するとバタフライ効果を抑え込むことができる/Credit:pixabay

現実世界で複雑なシステムを組み立てるときには、初期の条件設定の違いが将来組み上がるシステム全体を大きく変えるという、初期鋭敏性が存在します。

そのためもし過去干渉によって初期条件が書き換えられてしまえば、必然的にシステム全体も全く別物になるのです。

この初期鋭敏性のことを標準的な言葉にしたものが、バタフライ効果と言えるかもしれません。

子供時代のヒトラーを見ることで歴史を大きく変えるかもしれないのです。

ですが量子世界では、そのような効果が起こらないことがわかりました。

情報にダメージを与える観測を行ったとしても、そのダメージは現実世界のように拡大されないため、有用な情報を簡単に回復できたのです。

研究者たちは、量子の世界は、僅かな衝撃で別方向に倒れてしまうドミノのような繊細な束ではなく、逆に観測されていないもつれが多いほど、未来を維持する力があると推測しました。

再びヒトラーの例で例えるならば、量子世界ではヒトラーに少し干渉しても、他の量子もつれの存在がその干渉を抑え込み、ほぼなかったことにできるのです。

この事実は、古典物理学における初期鋭敏性やカオスの概念と、量子力学における初期鋭敏性やカオスの概念が全く異なることを意味します。

量子の世界では、現実世界より気軽にタイムスリップできるようですね。

 

研究内容はアメリカ、ロスアラモス国立研究所のBin Yan氏らによってまとめられ、7月24日に学術雑誌「PHYSICAL REVIEW LETTERS」に掲載されました。

Recovery of Damaged Information and the Out-of-Time-Ordered Correlators
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.125.040605

 

人間サイズの物体に「量子的ゆらぎ」が確認される! ゆらぎ幅のコントロールも可能に

【編集注 2020.08.07 10:40】
記事内容に一部誤りがあったため、修正して再送しております。
reference: scitechdaily / written by katsu
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