ゲノム編集で生まれたオポッサムの子どもたち(左)
ゲノム編集で生まれたオポッサムの子どもたち(左) / Credit: 理化学研究所-有袋類の遺伝子改変に世界で初めて成功(2021)
biology

有袋類では初めてオポッサムの遺伝子改変に成功!

2021.07.24 Saturday

理化学研究所の生体モデル開発チームが、世界で初めて、有袋類の遺伝子改変に成功しました。

今回の研究は、有袋類の中で比較的飼育が容易である「ハイイロジネズミオポッサム」を対象としています。

オポッサムを含む有袋類ではこれまで、遺伝子改変に必要な技術が確立されていませんでした

しかし今回、ゲノム編集技術「CRISPR/Cas9システム」により、アルビノを含む遺伝子改変個体の作製に初成功しています。

研究は、7月21日付けで科学誌『Current Biology』に掲載されました。

An albino opossum proves CRISPR works for marsupials, too https://www.technologyreview.com/2021/07/21/1029891/albino-opossum-crispr-marsupials/ 有袋類の遺伝子改変に世界で初めて成功 -ゲノム編集による遺伝子改変オポッサムの作製- https://www.riken.jp/press/2021/20210722_1/index.html#note10
Targeted gene disruption in a marsupial, Monodelphis domestica, by CRISPR/Cas9 genome editing https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(21)00885-X?_returnURL=https%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS096098222100885X%3Fshowall%3Dtrue

ゲノム編集のためにクリアすべき難点

哺乳類は胎児の育て方によって、ヒトを含む有胎盤類、カモノハシとハリモグラの単孔類、カンガルーやコアラなどの有袋類の3つに大別されます。

有胎盤類は、胎盤を介して栄養分を与え子宮内で胎児を育てます。

単孔類は、卵で子どもを生む哺乳類です。

一方の有袋類は、発達した胎盤がないため、子宮内で胎児を育てることができません。

そのため、未熟な状態で子どもを生み、子どもは自力で母の育児嚢に入り込んで、そこで育てられます。

その有袋類の中で最初に全ゲノムが解読されたのが、ハイイロジネズミオポッサム(以下、オポッサム)です。

オポッサムは系統的には有袋類の祖先的なグループであると考えられ研究されてきました。

本種は体長が15センチほどで、マウスやラットに似た飼育が可能であり、有袋類では希少なモデル動物となっています。

オポッサムは14日間という短い妊娠期間で未熟児を出産。カンガルーのような袋がないため、子どもたちは乳房にしがみついて離乳期までを過ごします。

未熟な子どもたちは母親の乳房にくっついて成長する
未熟な子どもたちは母親の乳房にくっついて成長する / Credit: 理化学研究所-有袋類の遺伝子改変に世界で初めて成功(2021)

しかし先に指摘したように、オポッサムを含む有袋類においては、遺伝子改変のために必要な技術が確立されていません。

そこでチームは、オポッサムを遺伝子改変するための技術開発を始めました

最初の問題は、どうやってオポッサムの受精卵を計画的に採取するか、でした。

というのも、哺乳動物の遺伝子改変は、ゲノム編集のための溶液を受精卵に注入して行うためです。

発情周期が長く、縄張り意識も強いオポッサムから、定期的に受精卵を得るのは困難でした。

そこでチームは、マウスにも使われる「性腺刺激ホルモン」をメスに投与し、卵巣に対し排卵を促進させることで難点をクリアしました。

ホルモン処理により交尾が早く誘導される(右)
ホルモン処理により交尾が早く誘導される(右) / Credit: 理化学研究所-有袋類の遺伝子改変に世界で初めて成功(2021)

次の問題は、いかに受精卵を代理母に移植するか、です。

マウスやラットでは普通、偽妊娠状態にあるメスの卵管や子宮に受精卵を移します。

それを踏まえ、オポッサムでも偽妊娠状態にあるメスに移植したところ、見事に受精卵の発生に成功しました。

この手法は、ワラビーやフクロネコなど、他の有袋類でも試されたことがありますが、いずれも失敗に終わっています。

オポッサムの受精卵
オポッサムの受精卵 / Credit: 理化学研究所-有袋類の遺伝子改変に世界で初めて成功(2021)
マイクロインジェクション法(左)、ピエゾマイクロインジェクション法(右)
マイクロインジェクション法(左)、ピエゾマイクロインジェクション法(右) / Credit: 理化学研究所-有袋類の遺伝子改変に世界で初めて成功(2021)

最後の問題は、どうやって受精卵に溶液を注入するか、でした。

ラットやマウスでは一般に、顕微鏡下で極細のガラス管を受精卵に刺す「マイクロインジェクション法」が使用されます。

ところが、オポッサムの受精卵には、「ムコイド層」という厚い壁と「シェルコート」という硬い殻があるため、ガラス管が貫通しません

そこでチームは、圧電素子(ピエゾ)を組み合わせたパルスを使うことで、受精卵に穴を開ける「ピエゾマイクロインジェクション法」を採用しました。

その結果、受精卵へのダメージを減らしつつ、スムーズに針を刺すことに成功しています。

すべての難関をクリアしたので、いよいよ遺伝子編集です。

次ページ有袋類の遺伝子改変に初成功!

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