遺伝子操作されたカイコの糸
遺伝子操作されたカイコの糸 / Credit:Junpeng Mi( Donghua University)_Spider silk is spun by silkworms for the first time, offering a green alternative to synthetic fibers(EurekAlert 2023)
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「クモ遺伝子を持つカイコ」が誕生!”防弾チョッキ繊維の6倍”丈夫なシルクを作る

2023.10.04 Wednesday

ときに生物が自然に生み出す繊維の方が人類の発明品より優秀なことがあります。

有名なものがカイコ生み出す「(シルク)」で、その光沢や滑らかな質感、生分解性(自然界で分解される性質)から、長年重宝されてきました。

ただ、絹に丈夫というイメージはありません。

一方、クモの生み出す糸も非常に強い繊維として注目を集めています。

ただクモはカイコほど扱いやすい昆虫ではなく、まとまった糸を効率よく回収する方法がまだありません。

そこで、中国の東華大学(Donghua University)生物科学・医工学部に所属するジャンペン・ミー氏ら研究チームは、クモの遺伝子を持つカイコを作り出す研究を進めており、今回カイコに丈夫な天然繊維を生み出させることに成功したと報告しました。

飼育しやすいカイコから出たそのクモの糸は、防弾チョッキに使用される『ケブラー』の6倍丈夫だと言われています。

研究の詳細は、2023年9月20日付の科学誌『Matter』に掲載されました。

Spider silk is spun by silkworms for the first time, offering a green alternative to synthetic fibers https://www.eurekalert.org/news-releases/1001587 Bionic silkworms with spider genes spin fibers 6x tougher than Kevlar https://newatlas.com/materials/silkworms-spider-genes-spin-fibers/
High-strength and ultra-tough whole spider silk fibers spun from transgenic silkworms https://www.cell.com/matter/fulltext/S2590-2385(23)00421-6#%20

弱くて生産性の高い「カイコの糸」と強くて生産性の低い「クモの糸」

大規模に商業化されている動物繊維として有名なのは、ヒツジから得られるウールとカイコから得られる絹です。

人類は何千年もの間、カイコの飼育によって絹を生産しており、その絹は動物繊維の一翼を担う存在になっているのです。

ただしカイコの糸は、近年登場してきた合成繊維ほど丈夫ではなく、簡単に切れてしまいます。

カイコは量産しやすいが、その糸は丈夫ではない。
カイコは量産しやすいが、その糸は丈夫ではない。 / Credit:Canva

では、環境に優しいだけでなく丈夫な動物繊維は存在するのでしょうか。

ご存じの通り、「クモの糸」がこれに該当します。

ある種のクモの糸は、鉄や高強度の合成繊維に匹敵する強度を持っています。

しかしクモの糸を量産する手法が見つかっていないため、これまで利用されてきませんでした。

動物繊維の特性や生産の観点で見ると、カイコとクモは真逆の存在です。

カイコは狭い空間に何百匹いても平和に暮らすことができ、たくさんの糸を生産できますが、その糸は丈夫ではありません。

クモの糸は強いが、クモの性質上量産できない
クモの糸は強いが、クモの性質上量産できない / Credit:Canva

一方、クモには共食いの性質があります。

互いに攻撃するため、狭い空間では何百匹いたとしても最後には1.2匹しか残りません。

高強度の糸ですが、たくさん生産することはできないのです。

そこで研究チームは、大量に飼育できるカイコに、強力なクモの糸を紡がせることにしました。

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